終業のベルが鳴った。 うとうとしていた〇〇はざわめきに気付いてがばっと顔を上げる。 ね、寝てた…! ノートは真っ白。 否、意味不明なミミズがのたくっている。 幸い、机におでこを付けてまで寝ていたわけじゃないので赤くなっていそうな痺れはない。 だが、舟を漕いでいたのは明らかだ。 そっと隣りを窺うと、クラサメはノートを閉じて今しがた授業を教えていた教官のところへ行ってしまった。 〇〇の事は一顧だにしない。 はぁ…。 初めての大接近だったのに。 せっかくのチャンスを見事棒に振った。 授業でわからないとこを教えあったり、あわよくば筆談とかしてみたり。 考えついてきゃーっと俯く。 が。 どうせ寝てしまったんなら、そんな夢だけでもみたかったものである。 深いため息とともにすぐに落ち込んだ。 顔を上げて教壇の方を見ると、もうクラサメも教官もいない。 教科書取りに戻ったのかな。 この授業は二限続き。 お昼休みが終わって、睡魔からの誘いが一番強い時間だ。 現に、休み時間になったというのに寝続けている生徒もいる。 次は寝ないようにしないと。 気分を入れ替えるために立ち上がって窓に向かう。 さわさわと木の葉を揺らす風が〇〇まで届いた。 眼下に目を向けると、授業が入っていないのか仲良く歩いていく生徒が見えた。 手だけでは足りず腕まで巻き付けて、その様子は幸せそう。 いいなあ。 窓枠に肘をついて眺める。 戦争時とはいえ、好いた惚れたはコントロールできるものではない。 それを活力とするか邪魔と考えるかは個人の問題だ。 クラサメ君は…後者かな。 あんまり興味なさそうだもんね。 そう思い込む。 しかしそれは戦争中とは関係なく。 この淡い想いを伝えないのも、きっと戦争中とは関係ない。 歩いてゆく二人が小さくなり、やがて見えなくなった。 ため息を残して踵を返すとそこには。 「目、覚めたか」 そこにはクラサメがいた。 「う、うん!覚めた!」 今、覚めた。 |