いつものように陽の光が差し込む窓側に座る。 講堂内は混み合っているが暑い季節に差し掛かってきているため窓側は人気がない。 ざわざわとした始業前の教室。 楽しそうにお喋りをしている皆が少し眩しい。 あと十分ほどで始まる次の授業は世界史だ。いつも冒頭に小テストがある。 「少しおさらいしとこうかな…」 かばんから教科書を取り出し、髪を一つにまとめて前回の講義内容をさらう。 カタン、と軽い振動を感じて髪のすき間から窺えば、同じ机の端に男子が座るのが見えた。珍しい。 座っている机より前の席はがら空きだ。みんな涼を求めて日陰に座っている。 混んでて座れなかったのかな、とそんなコトを思いつつ視線を教科書に戻した。 ここもチェック、と、マーカーのキャップを外して蛍光ラインを引く。 「すまないが、教科書を見せてくれないか」 「ひゃあッ!」 あまりの驚きに、引いていたラインがぐにゃりと大きく歪んだ。 決して大きくはない声だったのだが、まさか声を掛けられると思っていなかった〇〇は、おそるおそる声の方を見上げる。 こ、この声…! 「ク、クラサメくん…!」 「となり、いいか?」 いいも何も。 「どどどうぞ!」 急に邪魔になったカバンを慌てて反対側へ移す。 「助かる」 言いながら椅子を引き下げたクラサメは隣に腰を降ろした。 さんさんと降り注ぐ陽の光もなんのその。熱い。右半身が燃えるように熱い。 ちちち近いよー!!!! 握られた拳が震えてしまう程全身を固くし、頬を上気させて俯く。 「あ!きょ、教科書…」 「いや、見せてくれるのは講義が始まってからでいい。続けてくれ」 続けてくれ? 私何かしてたっけ…? 「予習、してただろ」 〇〇の顔面に“何を”と書いてあるのを読み取ったクラサメが教科書を指差した。 「み、見てたの!?」 いつから! 意識していない自分を見られていたということに、恥ずかしさから顔が更に赤くなる。 大丈夫かな。変な顔とかしていなかっただろうか。 「声を掛けるタイミングを伺っていたんだが…誤ったようだな。すまなかった」 「いえ!全然ッ大丈夫…じゃない!?」 言いつつ目にしたのは、教科書を大きくはみ出し机にまで延びた蛍光ライン。 いやぁ〜!と叫び、慌てて人差し指で擦る。 「…インクが伸びただけだな」 「指も黄色くなっちゃいました…」 み、みっともない…。 クラサメ君にこんなとこ見られるなんて…。 と、心で泣いていたところへ。 「この時間帯は日が強烈だな…。暑くないのか〇〇は。顔は赤いが…平気か?」 指に視線を落としたまま、一切の動作が止まった。 呼吸はもちろん、ひょっとしたら心臓までも鼓動を止めていたかもしれない。 「ちょ、ちょっと待ってて」 立ち上がった〇〇は一番近くのではなく席より少し前の窓へ向かった。 |