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□おかえり ep
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「髪を、切ってしまったんだな」
 
 
 腕の中に身を委ねてくれる事の心地よさを感じながら、クラサメの指に触れる〇〇の髪の毛は肩口で切り揃えられていた。
 
 
 申し訳なさそうに〇〇は俯く。
 
 
「ごめんなさい...。クラサメくんのために伸ばしてたのに...」
 
「私のため?」
 
「綺麗な髪だって...まだ候補生だった頃に言ってくれたから」
 
 
 小さく呟いた〇〇は慌てたようにクラサメの腕の中から出た。
 
 
「あ、あのっ変?似合わない?き、き...」
 
 
 嫌い...?
 
 
 言うに連れて瞳は涙ぐみ、声にも滲む。
 
 
「〇〇、」
 
「すぐ!すぐに伸びるから!伸ばすから!」
 
 
 ぎゅっと顔面に。頭皮に力を込めているようだ。
 
 
「伸びたかな!?」
 
「...いや」
 
「...ウィッグ買ってくる!」
 
「落ち着け」
 
 
 今すぐ買いに行くといわんばかりにベッドから降りようとする〇〇を、クラサメは優しく抱き留めた。
 
 
「似合うよ。会った頃から〇〇はずっと髪が長いままだったからな...。初めて見るが、似合っている。...私のために伸ばしてくれていたのか」
 
 
 絹のような触り心地は毛先にいこうと変わらない。
 
 
 短い自分にはわからないが、手入れは相当なものなのだろう。
 
 
「元の長さになるまで、傍にいてくれる...?」
 
「と、いう事は。伸びたら〇〇は離れてしまうのか?」
 
「えっ」
 
「大変だ。...〇〇が寝てる間に夜な夜な切らねばならないな」
 
「えっっ」
 
 
 短いままなら傍にいられる。そういう解釈は嬉しい事だが、だからこっそり髪の毛を切るという行動に〇〇の感情は複雑なものになった。
 
 
「冗談だ」
 
 
 おろおろと目を回し始めた〇〇に、クラサメは微笑んで額に口づけた。
 
 
「女性の髪に断りなく鋏を入れるなど、どんな処罰を受けても文句は言えない。男子禁制の領域だ」
 
 
 さらりと触れる〇〇の髪は、長さに変わりはあっても質感は損なわれていない。
 
 
 クラサメの好きな、〇〇の髪なのだから。
 
 
 
 
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