etc

□おかえり 後編
1ページ/63ページ

 
 
 
 
 半日以上、〇〇は眠り続けていた。
 
 
 シーツに広がる髪の毛を慈しむように撫でる。
 
 
 今この部屋には眠る〇〇とクラサメのみ。
 
 
 気絶していただけだと思われ大部屋に運ばれたが、今は個室に移っていた。
 
 
「〇〇...」
 
 
 クラサメは〇〇の手を取り握りしめた。
 
 
「寝過ぎだ...もう...夜が明けるぞ...?」
 
 
 くしゃりと歪んだ笑みを浮かべ、〇〇の頬を撫でる。
 
 
「そんなに...疲れさせてしまったか...?すまない...〇〇...」
 
 
 何かしてほしい事はないか?
 
 トンベリも部屋で待ってるぞ?
 
 心配、している。
 
 エミナも、カヅサも。
 
 四天王の皆もだ。
 
 
 〇〇...。
 
 
 いくら語りかけても〇〇のまぶたは動かない。
 
 
 手を握り込み願うように額に付けていると後ろの扉が開いた。
 
 
「クラサメ君...」
 
 
 エミナか...。
 
 
 振り向きもしないクラサメが見つめるのは、ただ〇〇のみ。
 
 
「戻って、ないの?」
 
「いつ起きるかわからない。誰もいない知らない部屋で目覚めたら不安がるだろう」
 
 
 どんな些細な変化も見逃すまいと、〇〇に触れ続け、声を掛け続け。
 
 
 クラサメにとっての長い夜は過ぎた。
 
 
「代わるわ」
 
「結構だ」
 
 
 クラサメ君...。
 
 頑なな様子のクラサメにエミナはため息を零した。
 
 
「目覚めたら、もちろんすぐに連絡する。...仮眠だけでも」
 
 
 幸い、〇〇の容態は悪化しているわけではない。
 
 
 状況を知らない人間が見たら、ただ眠っているだけに見えるだろう。
 
 
「少し、寝てるだけだ」
 
「...ええ」
 
「大袈裟なんだ...。個室も。この大層な機械も」
 
「そうね」
 
「どれもこれも正常。無意味だ。異常を示すはずがない。...寝てるだけなんだから」
 
「...」
 
「ただ、寝てるだけなんだ...」
 
 
 少し寝坊しているだけだ...。
 
 
「そうね...。そうよ。たまに寝坊するくらい、許してあげなきゃ。...すぐに起きるわ」
 
「ああ」
 
 
 ね?とエミナに腕を引かれ、クラサメは重い足取りで部屋を出ていった。
 
 
 
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ