ふしぎ星の話
□お昼ねルームと紙芝居
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ゆらゆらとゆれる、私の身体。
あったかくって気持ちいい。
遠ざかっていく、みんなのおしゃべりと音楽の音。
でも、全然、寂しくない。
温かい腕が私を包む。
優しく、優しく、ゆらゆらと。
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心地いい声が低く、ゆっくり、おだやかに、耳のなかに響いてる。
誰の声?
「…そこで、うさこは考えました。どうしたら、みんなで一緒にあそべるかなあ?」
知ってる、この声。
とってもキレイで…世界で一番好きな声。
「うさこはピョンピョンと走っていって、丘の上までやってきました」
私のしっかり閉じていた瞳がゆっくり開く。
少しだけ薄暗い部屋。…カーテンが閉めてあるんだ。
「お月様、おねがいです。星中にちらばった私の仲間に教えてください。今夜、パーティーをひらくって!」
パチパチパチ、とその言葉を聞いて誰かが手をたたいた。音のほうに寝返りをうつと、少し離れたところの床の上にミルキーがちょこんと座り込んでいるのがみえる。
「嬉しいのか? ミルキー?」
満面の笑みで両手をたたくミルキーに紙芝居をみせているシェイドが笑いかけた。それから彼は紙芝居をめくるために手をかけながら妹に尋ねる。
「さてさて、これからどうなるでしょうか?」
「バブー!」
「そう。お月様はうさこの願いを聞き入れました。そうしてみるまにまぶしく輝きだすと…ヒュンッ、空のあちこちに向かって光のかけらを飛ばしました」
「バアー!」
スッとシェイドが紙芝居をめくると、次のページは紺色一緒の画面。そこに白い光が流れ星のように横切り、一匹のうさぎがそれを驚いた顔をして指差している。
「『あ! あれはなんだ?』うさこの仲間のぴょん太がさけぶと、光はぴょん太にいいました。『うさこちゃんのところに集まって。今夜、みんなでパーティーをするんだよ』」
それから紙芝居がめくられるたびに、仲間がひとりひとり、お月様の光のかけらの知らせをうけて、同じ場所に向かいだす。そんな話しがくりかえされた。
「みんながみんなが、集まってきた。うさこちゃんは大喜び。そうしてうさこたちはずっとダンスをしましたとさ。おーしーまい」
シェイドが紙芝居を自分の横に置くと、ミルキーは満足そうに笑ってから、コテンとカーペットの上に転がった。
転がったミルキーはなんだか真面目な顔をして宙のどこかをみつめ、シェイドにタオルケットをかけられると、ちっちゃな手でゆっくりと繰り返しタオルケットをなでる。
「眠くなったか」
シェイドがおでこをなでても、ミルキーは真面目な顔でどこかをみつめたまま。そうして、その瞳がフッと閉じ…フワッと一瞬開いて…またゆっくりと閉じると、それはもうそのままになった。
ふう、とシェイドが息をつく。それから彼は紙芝居を膝の上でトントンと整え始めた。
その姿をあんまりみつめすぎたせいか、彼がふと、顔をあげる。
目が、合った。
「…あ」
シェイドの瞳が大きく開く。私はなにかいい言葉をみつけなきゃ、と思いつつなにもいうことができなくて。
「お、おはよう…」
ドキドキしながらも、いつものごまかし笑いをしてしまう。
シェイドはなにかいおうとして…首を素早く振って言葉を飲み込み、そしてハア、とため息をつく。彼の頬がパッと赤く染まったのをみて、私はそれいじょういまのことにふれないようにしようと思った。
「あのっ…ミルキー寝ちゃったね」
「…ああ」
部屋のなかに沈黙がおりる。聞こえてくるのはかすかなミルキーの寝息。…でも、ちっともいやな静かさじゃない。
「パーティーに…戻るか?」
ようやくシェイドが口をきいた。
「え? あ、うん…」
「じゃあ、いくか」
スッと立ち上がる彼をみて、私は戸惑うように彼の小さな妹に顔を向けた。