小説

□君が哀しい@
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誰もが一度は聞いたことがあるだろうフォークソングの如く、雨は夜更けに雪へと姿を変え、音も無く見慣れた街を冬に染め上げている。

雪なんて厄介者扱いが常なのに一年に一度今日この日だけは子供と犬以外にも大層喜ばれる。取り分け若い恋人達に。赤と緑が街中に蔓延し賑やかな鈴の音が独特の雰囲気と忙しなさを醸し出している。

クリスマスという言葉を聞いて、俺が思い出せる記憶は少ない。
だけど・・・その中に1つだけどうしても忘れる事の出来ないでいる、強い記憶がある。揺れるオレンジ色の電飾、街を行き交うどこか無機質な沢山の人、町を染上げる恨めしい程の・・・・白。
クリスマスだからと大家さんにお呼ばれし、人波を掻き分け急ぐ俺の目にそれは不意にとまった。
ショーウィンドウの中、ぽつんと売れ残った、小さな硝子製のクリスマスツリー。繊細な美しさを裏切るように赤い硬質なセールのタグが引っ掛かっているそれになぜだか俺は心臓の裏を叩かれたみたいに、衝撃を受けた。

そして気が付いたら急いでいる事も忘れ、冷え切った店先のガラスに指先と頬を寄せていた。吐き出す息は窓ガラスに白い曇りを残すが、それも一瞬で消え去ってしまう。今ならそれが意味の無い感傷だと理解できる、何時だって本当の意味で一人だったこと等無いのだから。だけど、まだ幼いその時の俺にとってその硝子のクリスマスツリーは自身の姿そのものだった。血の繋がる人だから、その人が特別なのでは無いのだと勿論知っていただけど、不意にそれがどうしようも無く特別に見えてしまう時がある。天涯孤独なんて、気取った言い方好きじゃないが、不意にその言葉が頭をよぎる事がある。特にこんな街中が真っ白に塗り潰される日には。


人との繋がりに絶対なんて物は無い。母親のように感じている侑子さんとの関係でさえ何時まで続くものか解らない。願いを叶えた後の事も。

百目鬼に対しては特にそうだ。
あいつに肉親の情を感じることは勿論無い。知人と言うには、何か違和感がある。友人と言うには、何かが足りない。どんな繋がりにも、絶対に確かな物など無いのだから。
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