gift

□JONQUIL
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あたしがほんのガキだったその昔に、近所の女の子がすごくおおきな―今手に取ればそう大きくは見えないだろう―くまのぬいぐるみを溜め池に落っことしたことがあった。
それはあたしがその子に、母親から貰ったのだと言って自慢されたものだった。
それから、あたしはそのぬいぐるみを取ってやろうと池に飛び込んで、見事見つけて池から上がってきて。
で、なぜか叱られたんだっけ。
深い池だったから。
溺れたらどうする、って、ゲンさんにも、ベルメールさんにもどなりつけられて。
あたしはわけもわからず、謝るのも納得いかず、結局しばらくすねて。
でも最後には(ただもう寂しかったから)折れて、頭を下げた。
ものすごくふてくされた顔をしてたから、また怒られちゃったんだけど。

ああ。
ロビンは今、あたしの頭上で、お母さんにもらったのだと大義そうにぬいぐるみを抱えて嬉しげだった、あの女の子と同じ顔をしている。
そして同時に、ぬいぐるみを池に落として(もう泣くのも疲れるほどそこでそうしていたのか)魂の抜けたようなふうでへたりこんでいた時のあの子の顔ばかり、あたしに思い起こさせる。

「なに、考えてたの?今…」
「ロビンのことしか、考えられないわよ、あたしは」
「ふふ、…わたしのナミちゃん、だものね」
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