ナミロビ

□ナミロビ
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「ね、ナミちゃん。あごのとこに何かついてる。取ってあげるから、ちょっと上向いて?」

「あご?上?」


素直に上を向く。
近づいてくる顔。
ちょっと近いって。
・・・。


「取れたわ」

「ふうん」


取れたわ、じゃない。
あご掴まれて、口付けられた。
おまけのように、ほら、って出してくる指には何も付いてないし。
バカじゃないの。

何がしたいの?
何がお望み?
リアクション?
びっくりしたって反応は、期待してもムダよ。
そんな顔、絶対してやんない。

だから?
別に。
犬に噛まれた。くらいの気持ち。
そのニヤニヤ微笑ってる顔が、むかつく。
いつか、その余裕たっぷりな顔を、ゆがませてあげるわ。



きっかけは、そんな感じで。
目には目を。
歯には歯を。
報復は、ハムラビ法典で。





「そんな何もかも分かってますって顔を見ると、這いつくばらせたくなる」

「あらそう」


涼しげにこちらを見る瞳。
感情を出さない顔。
無感動な言葉を発する口。
いちいちむかつく。


「私も嫌われたものね」

「あんた見てると、めちゃくちゃにしてやりたくなる」

「ふふ」


ロビンは目を逸らさず、口の端を上げた。
そう、その笑い方が気に食わない。
なに考えてるんだか、わからなくて不気味。
そう、出会った時から、怖かった。
キレイで、腹の底の見えないロビンが。

怖ければ、近づかなければいいものを。
なにを間違えたのか。
どこで、どうやって道を違えた?
やっぱりあの時のキスなのか。

あれから。
やられたら、同じ事をやり返してきた。
お互いに。
ひとつクリアしたら、またひとつ。
段々とクリアするレベルがあがっていく。
二人とも、平然とした顔でこなした。

ふうん、だから?
へぇ、それで?
みたいな。

こんなことくらいで驚かない。
全然、平気。
これくらい別に。
なんともない。

相手に嫌がらせをして、動揺を誘う、秘かなゲーム。
不意討ちに、闇討ち。
エスカレートしていく行為。
私たちは、余裕の表情で微笑みあって。
私は内心、どこまでいくのか怖かった。

今日は、とうとう・・・

・・・できれば、断って欲しい。
それで、その時の、怯んでる顔が見たい。
そう、私はロビンが怯んでる顔が見たいんだ。
そして、勝ちほこりたい。
ただ、それだけ。
だから、言う。



「するわよ」


「どうぞ」



無表情に普通に返される返事。
まるで、語尾の後ろに「ご勝手に」とでもついているかのような。


なに、その態度。むかつくんだけど。
ほんと、いい加減にしなさいよ、といいたい。


する、と言ってしまった手前・・・ひきさがれない。
ここまできたら、するしかない。
ちょっと頭が痛くなった。
とりあえず、言う。
かすかな願いを込めて。



「途中でイヤだったら、イヤって言ってよね」


「・・・言わないわ」







私の下のロビンの顔がゆがむ。
その表情に、歪んだ感性が満足を覚えた。



「痛かった?」


「っ・・・いいえ・・・」


「そうよね。私が何も触れてないのに、濡れてたものね」


「・・・生理、前、だから・・・」



指を抜いて確認する。
透明。



「血は、出てないわよ」


「・・・」


「ああ、その顔、好きよ」



どこまでも無反応かと思いきや。
抱いた体は熱くて。
柔らかい内部は、私の指を締め付けて。
その口から、喘ぎ混じりの声が漏れ出て。

安心した。

もう怖くない。

だけど。
その見たことのない顔が。
綺麗で、卑猥で、嗜虐心をそそる表情を見て。
また見たいと思ってしまった。

これで終わると思っていたのに。
まあ、今までが今までなので、次は逆にされるのもあるのだろうけど。
それで終わりだと思ってた、のに。
そのはずが。

終わらない、終われない。
私だけ。
シなければよかった、なんて。
どっかで聞いたセリフが頭の中にヘビーローテーション。

とりあえず、今は。
と、考えるのを放棄して、ロビンを追い詰める。
そう、その顔。ずっと見ていたい。
眉を寄せて、目を閉じて、苦しそうに喘いでる顔に、私の征服欲が満たされる。

指の先に、内部が収縮したのを感じた。
そして、その瞬間「××・・・」と耳に届いた言葉。



くやしいけど、私の負けみたい。




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