ナミロビ
□ナミ+ロビン
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雨の中に、ナミちゃんが一人立っていた。
濡れた甲板に滑らないように気をつけて、傘とタオルを持って近づく。
傘をさしかけ、顔を覗き込むと、見返してくる子猫のような瞳。
オレンジ色のつややかな髪が、雨で房のように、その白い額に貼りついていた。
瞳の黒が、まるで傷口のように見えた。
雨と涙は同化していたが、分かる。
泣いているのだ。雨の中に突っ立って。
唇を噛みしめて。
「ナミちゃん」
声を掛けても、そこから動こうとしない。
こちらに向けた顔をまた俯かせ、肩を震わせはじめる。
どうしたものかわからず、とりあえず頭にタオルをふわりとかぶせて、風呂場にひっぱっていった。
雨で冷え切った体を温める為に、風呂に入ってもらおうと思ったが、動く気配がないので、仕方なく入れてあげることにした。
髪を洗い、体を湯で流し、タオルで拭く。
先ほどまで、病的な青さだった頬が、うっすらピンク色になってきたので、すこし安心する。
そして女部屋に連れ帰った。
「それで・・・何があったの?」
「・・・・・・」
「・・・言いたくないのなら、無理に言わなくてもいいけれど」
「・・・失恋したの」
うつむきながら、ぼそりと洩らされる言葉。
ああ、そうか、とか、やっぱり、とかひどく他人事のように思う。
でもそんな率直な事は言えないので、慰めの言葉を自分の中に探す。
しかし、私などに慰められても、失恋の傷は癒えないと思い、結局、慰めの言葉は出なかった。
「そう」
「他に好きな人がいるからごめん・・・って」
「うん」
「でも・・・・その相手も男で」
「・・・」
「私が男だったら良かったの?それとも・・・その人じゃなきゃだめなの?」
そして、また涙を流した。
思い当たるのはひと組の喧嘩仲間。
あの二人。
ああ、そうか。この子は同じなのだ。
わたしといっしょ。
たぶん同じ相手に叶わない恋をしている。
同じ恋の痛みを抱えるあなた。
違うのは、行動。
告白したあなたと、告白しないわたし。
泣いてるあなたと、泣かないわたし。
だから。
泣かないで欲しい、と思った。
顔を上向かせて、その涙のひとしずくを、唇で吸い取った。
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