ユキヒト×アキラ
□王様のベッドはトイレ
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「それでは!野郎共、今年もよろしくー!」
トウヤの一声の後に、缶ビールをぶつける音がいつもの部屋に鳴り響く。
アキラもユキヒトも、トウヤの弾けぶりに肩を竦めながら視線を合わせると、控えめに「乾杯」と缶を鳴らした。
目の前のテーブルには湯気の立ち上がるキムチ鍋。ビールに良く合うツマミが数種類。
兼ねてからトウヤが新年会をしようと言っていたが、年末年始とバイトで忙しかったため、それぞれの都合がついたのは一月の中旬だった。
三人で酒を飲むのは大抵アキラとユキヒトが暮らしているこの部屋だ。気兼ねなく飲めるし、潰れても遠慮することなく寝ることができる。
そのせいかトウヤはいつもペースを飛ばして飲みすぎ、酔い潰れていた。
「おいトウヤ。あんま飲みすぎんなよ?」
ユキヒトがトウヤの後ろに置かれた酒の量を見て呆れたように口を出す。
「いいじゃねぇか〜、今日ここに泊まってくつもりだしよ!」
「そうやっていつもベッド占領してるじゃねぇか。俺らが寝る場所が無ぇんだっての」
アキラは二人のやりとりを少し遠巻きに見つめては、ちびりちびりと酒を飲んでいた。
もともと酒はあまり強い方ではない。だが嫌いだというわけではなく、ほろ酔い気分になってきたときの雰囲気はわりと好きだった。
特にユキヒトとトウヤのやり取りを見ているのは楽しかった。
「二人とも、本当に仲良いよな」
「はぁあ!?どこがだよ」
ユキヒトが眉間に皺を寄せてアキラの方に振り向いた。そしてぐいっと一口ビールを飲むと、トウヤを指して抗議する。
「図々しいんだよ、トウヤは!」
「ユキヒト……俺のこと、そんな風に思ってたのか?」
トウヤが泣きまねをしながらメソメソとした声を出す。
「大体にして何だよ。勝手に泊まるとか言い出して!」
「別に良いだろ?俺が泊まると何か困るのか?」
「困る。俺とアキラがセッ……っぐ」
なんとなく嫌な予感がしてアキラはユキヒトの口を無理やり手で塞いだ。
トウヤに二人の関係が知られていたとしても、やはりそういう事を他人がいる前で喋られるのは恥ずかしい。
ユキヒトがもごもごと口を動かしているが、それを無視するようにトウヤに満面の笑みで声をかける。
「全っ然困らないから。いつでも泊まっていけよ」
「おおお!さっすがアキラ!お前は本当に優しいよな!」
気をよくしたのかトウヤが二本目の缶を空けグビっと飲んだ。すでに一本目は空けてしまったらしい。
ユキヒトは口を塞いでいる手を振り解くと、アキラを咎めるような目で睨み付ける。
「なんだよ。いいだろ別に。困ることなんてないんだから」
アキラからしてみれば、本当に困ることなど何一つない。いつもユキヒトと一緒に寝ているベッドをトウヤに占領されても、自分たちは床で寝ればいいと思っていた。
ユキヒトはそんなアキラを見て、深いため息をつきながら首を横に振り「わかってないな」と呟いた。
アキラはユキヒトの言葉を無視しトウヤにキムチ鍋をよそってやった。それに気を良くしたトウヤがまた缶を空ける。それを見たユキヒトがトウヤに文句を言う……。
そんなことを繰り返しながら、そのまま三人はビールの空き缶を増やしていった。