ユキヒト×アキラ

□二人の時間
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深夜、玄関のドアをそっと開けて部屋の中へ入る。
アキラを起さないようになるべく足跡を立てずに進んでいくが、ユキヒトの描いた絵やらソリドの袋やらをつま先で弾いてしまいガサガサと音を立ててしまう。

いつもユキヒトが帰る時間はアキラが寝ている時間。バーで働いているとどうしてもこういう時間になってしまう。ユキヒトの帰りを迎えるのは、アキラの穏やかな寝息だけだ。

明りを点けるわけにもいけず、ユキヒトは手探りで部屋の隅に荷物を置き、着替えて、そっとアキラの眠るベッドに近づいた。
アキラは寝相が悪い方ではないが、大概ベッドを占領して寝てしまう。二人で一緒に寝るときはそうでもないが、やはり隣が空いてるとなると占領してしまいたいくなるのが人間の性質だろう。
すやすやと眠る体を少し押しのけて、ベッドへと潜り込む。
アキラの体温が染み込んだベッドが、疲れた体に心地よかった。

「…、ん?ユキヒト…帰ったのか?」
「悪い、起したな。」

アキラが薄っすらと目を開けてユキヒトを探す。背中に自分の物ではない腕の感触がして寝返りを打つと、暗がりでも良く分る赤茶色の髪がアキラの顔をくすぐった。

「…酒くさい」

バーで働いてるユキヒトの体には、アルコールの匂いが染み付いていた。シャワーを浴びてもなかなか落ちない匂い。初めはその匂いを嫌っていたアキラだが、最近はその匂いにも慣れて来た。酒くさいと言いながらも安心できるユキヒトの匂いがアキラは好きだった。

「もう夜遅いし、明日起きたらシャワー浴びるから我慢しろ。近所迷惑だろ?」
「…別に、嫌だとは言ってない。」

再び寝返りを打ち、ユキヒトに背中を向けた。さっきよりは少し場所を空けて。
寝返ったアキラの髪の襟足から二人で一緒に使っているシャンプーの匂いが漂う。
ユキヒトはその匂いがもっと欲しくてアキラの首筋に顔を寄せた。

「…っ、なんだよユキヒト?」

答えずに無言で、ただ息をする。アキラが息をするたびに上下する肩や背中に、ユキヒトの心音が響き渡る。背中から腕をまわしアキラの手と重ねると、そのまま指を絡めてギュっと握った。
アキラは一瞬困ったように顔を眉を下げるが、ユキヒトから寝息が聞こえると、再び自分も瞼を閉じた。
こうして眠るときに自分以外の心音が聞こえることが、こんなにも心地いいということをアキラはトシマを抜けて二人で暮らして初めて知った。
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