ケイスケ×アキラ
□幸せの小犬
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強い雨が空から打ちつけるように地面を叩いている。
濃い灰色の空には、いつも見えるはずの夕日の影もない。
俺は差しても変わらないであろう小さな傘で、必死に胸元を覆うようにしながらアパートまでの道を走り抜けた。
「ただいまアキラ」
豪雨の音が部屋にも鳴り響くが、玄関のドアを閉めればそれほど煩い音ではない。
「おかえり…。って、びしょ濡れじゃないか」
アキラが頭のてっぺんからつま先まで雨に濡れた俺を見て、呆れたように溜息をつく。
「傘、ちゃんと持っていったんだろ?」
「うん…一応、差してはきたんだけどね…」
顔や肩こそ濡れてはいたが、ツナギの胸元は雨に濡れずに、乾いた布地がそこにあった。
その不自然な服の濡れ方にアキラがつい俺の胸元に顔を寄せる。
そのとき、やけに膨れ上がった俺の胸元から、可愛らしい鳴き声が聞えた。
「……ケイスケ、今の音は…なんだ?」
「いやぁ…その…」
俺が答えをはぐらかしていると、今度ははっきりとその鳴き声が聞えた。
「キャンっ!」
今まで俺の胸の中で大人しくしていたソレが、チャックのあいたツナギの襟元からひょっこりと顔を出した。
「ケイスケっ…お前、犬拾ってきたのか!?」
「ははは…はは…は…は、…………ごめん」