ゲーム風味SS
□咎狗甘水のバレンタイン
【ケイスケside】
バレンタインで賑わうデパートの特設売場。
俺は少し緊張しながら、その可愛らしい売場に近づいていった。
周りは皆女性ばかりで、ショウケースに飾られているチョコレートはどれも綺麗だった。
リボンやレースでラッピングされた可愛らしい箱。一粒一粒が模様の違うハート型のチョコレート。
その甘い雰囲気に硬くなりながらただ突っ立っていると、横から押してくる女性客にショウケースの前から追い出されてしまった。
ものすごい気合の入れようだ。
「や、やっぱり……男がこんな売場に来ちゃ、おかしい……よね」
アキラにプレゼントするチョコレートを買う為に来てみたけど、本来貰うはずの側の男がこんなところにいるのは場違いな気がしてきた。
わずかに空いた人垣の隙間から控えめにショウケースを覗いていると、店員の女性が声をかけてきた。
「お決まりですか?」
「え!?あ、はい!……いえ、まだ……です」
急に声をかけられ、つい声が裏返ってしまった。
男の俺に「お決まりですか」なんて聞かれても、そう簡単に決まるわけないじゃないか。
「アキラはどんなチョコがいいのかな……」
普段お菓子を食べるところをあまり見ないし、甘いものが好きだという話も聞いたことがない。
その前に、バレンタインに男からチョコを貰って嬉しいと思うのだろうか。
女の子が男の子にチョコレートを上げる日、バレンタイン。
でも俺たちは男同士だから、女だとか男だからとか関係ない。
それでも好きな人にチョコをあげたい。アキラに好きだって伝えたい。
俺は覚悟を決めて再びショウケースの前に割り込んだ。
あまり凝った箱はちょっと俺っぽくないし、そんなに大げさなものじゃなくてもいい。
かといって花模様のプリントがされたチョコレートじゃアキラのイメージには合わないし。
我を忘れてチョコを選んでいると、隣の人にぶつかってしまった。
「あ、すいません!」
「あぁ気にすんなって」
てっきり女の人にぶつかったと思ったのに、返ってきた声は低い男の声だった。
その人は高校生みたいで、どこかの制服を着ていた。
髪の毛が明るい色に染められていて、おしゃれに毛先を撥ねさせている。
俺みたいに恥ずかしがりながらチョコを選んでるわけではなく、堂々と店員に相談までしている。
「そ、そうだよね。べ、別に恥ずかしいことじゃないよね」
俺はその人がチョコを選ぶ様子を見てなんだか勇気を貰った。
そして俺も意を決して店員に声を掛ける。
「あの、すいません!……その、あまり甘くないやつって、ありますか?」
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