□■ヒ・ミ・ツの箱■□
□ヘタレ彼氏ツンデレ彼女
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『甘いものは好きか?』
ごくありふれたこの問いにどう答えるべきか。
ただそれだけの為にオレの脳内では大量のブドウ糖が消費された。
ブドウ糖を金額に換算していかほどになるのか見当もつかないが可能であるならば請求したくなったほどだ。
何故ならば。
この問いを発した当人は常の如くどこか険のある瞳をオレに向け、殺気すら覚えかねないほどの真顔だったのだ。
なんなんだ?
オレは親の仇か。
ならばまずは奉行所に届け出るべきだ。
いや、そんなことはどうでもいい。
問題なのは目の前でオレの答えを待つその人こそが。
オレ自身どうかしてしまったのかと疑いたくなってしまうが…むしろ認めたくはないが。
困ったことに現在進行形で好意を抱いてしまっているらしい相手であることだ。
…ってゆーよりこれってやっぱ初恋?
ファーストラヴ?
わお。はちみつレモンな香り。
初めてのキスは次亜塩素酸カルシウムのフレーバーがした?
―さて。問いの答えである。
糖分は人体においてとても大切な栄養素の一つである。
先に述べたブドウ糖などは実に30%も脳はそのエネルギーとして必要とするものだ。
であるからして、必要か否か。であったならばここでの答えは『必要である』といわざるを得ない。
ちなみに『脳はブドウ糖だけがエネルギー源である』というのは間違いだ。
栄養源ではあるが、脳は胃からブドウ糖がなくなると肝臓に摂りにいく。
それもなくなる…およそ食後6時間後には筋肉を分解して糖質を摂りにいくのだ。
だから適度な間食は必要な行為ではある。
テストに出るぞ!
出ないか。
だがこの場で言われているのは『好きか』どうかである。
いやむしろおまえが好きだとかは言えない。口が裂けても言えない。まだ。
こらソコ。勝手に言わないように。
個人的味覚において好むかどうか。
そう、これだ。おそらく問われているのは。
オレ自身がどうなのか。
嫌いではない。
では好んで食すか。
あれば食う なければ別に ホトトギス。
ああ。ホトトギスがピーチク鳴いている。
結局。
かなりの時間を要した後にオレの口から発せられたのは短く一言。
「別に…」
別にってなんだ。別にって。どっちなんだ。
別に好きだけど?別に嫌いじゃないけど?
あ。なんだ、割と嫌いじゃないんじゃないか?
運の良いことにオレのその要領を得ない返答に対してツッコミはなかった。
しばし逡巡のあと彼女はこう言ったのだ。
「じゃあ今度付き合って。」
ブラボー神様。
オレ、なんか良い行いでもってあなたに感謝を捧げてみようと思う。そのうち。
そして今現在のオレは…
一度は称讃した神をちょっとだけ呪っている。
「じゃあ、次はこれ。さっきとは少しアレンジが違うから。」
「…ハイ。イタダキマス。」
場所は彼女の自宅でもあり、オレのバイト先でもある喫茶珊瑚礁。
時刻は営業終了後の夜11時をとっくに過ぎた頃。
カウンターに座らされたオレは今。
ヘンゼルとグレーテルが迷い込んだお菓子の家よろしく次々と甘味成分を摂取させられ続けている。
もう何個目かわからない。
お前はオレを肥え太らせてどうしたいというのだ。
正直、既に味の違いについては全く自信がない。
知ってるか?
過剰な糖分摂取は糖質を分解するインシュリンが多量に分泌されて低血糖症を引き起こすんだ。
そうなると脳はブドウ糖を摂取できなくなって思考能力が低下し、今度はアドレナリンを分泌して肝臓からグリコーゲンを取り崩して脳のエネルギーを補う。
アドレナリンは人を攻撃的にさせるんだぞ?
思考能力低下+攻撃性上昇
さて、ここにウサギちゃんがいますよどうしてくれようか。
「…どう?」
「………」
ダメです。ムリです。ごめんなさい。
上目遣いでオレの感想を心待ちにしている超絶かわいらしいウサギちゃんに牙を向けるなんてオレにはできません。
「うまい、よ。これも。もちろんっ」
「…さっきとどっちがいい?」
さっきとの違いがわかりません。
「…甘すぎないほうが、いいかな。」
「じゃあソースはやっぱりラズベリーソースのほうがいいか…だとすると…」
オレの微妙な返答も一応は彼女の役に立っているようだ。
待て待て。そこでまた次の試作品を作り出すんじゃありません。
「と、とりあえずもう遅いし、次回にしないか?」
オレはもう限界だ。しばらく甘味はおさらばしたい。
「そう…か。え?もうこんな時間!?ヤバ。発注メモっておかないと!」
「だろだろっ?それがいいと思うぞ。うんうん。今日のところはこの辺にしておかないと明日にも響くし!な?」
「わかった。じゃあまた次回ね。」
助かった…
その上うまいこと次回も取り付けたとか、不幸中の幸い。武士の情け。
甘味攻めは意外に効くぜ。主に胃のむかつきともたれに。
ほっとして息をつき、がっくりとカウンターに伏したオレをそのまま放置で。
オレの愛らしいピーターラビットちゃん(…あ。ピーターはオスか。)はパタパタと慌しく棚下の引き戸を開けたり閉じたり。
しばらくその音だけを聞いていたら、嗅覚に訴えてくる芳しい香りが漂い始める。
「ほら。甘いものばっかで疲れたでしょ?」
コトリと目の前に賄い用のマグカップが置かれる。
柔らかく立ち昇る湯気の向こうに同じようなカップを口に運ぶウサギちゃんの姿。
温かいコーヒーを受け取って身を起こす。
ああ…いい香りだ。
スイーツとコーヒーは黄金ペアになれるのも頷ける。
甘味はもう限界値を突破していたのでそのままブラックでいただく。
「うんまぁ〜〜」
「そりゃ…わ、わたしが淹れたんだから当たり前っ!」
おっとー?ちょっと照れた?マジ?
「まぁ、とりあえず今日はお疲れさま。それと……。」
目をそらしながら小さく呟くように「アリガト」?
まさかの聞き間違い?いやいや。
心なしか顔が赤くなってるような…?
これが俗に言う『ツンデレ』ってやつですか?
ヤバくないですか?かわいすぎますよ!
いい……
いいね。これ。
最高だぜ神サマ。
オレはこの笑顔を見れるなら。あと何回甘味攻撃を受けても不死鳥のように蘇ってみせる!
あ。誰だ今『こいつアホだな』とか思ったやつ!!
オレがアホなんじゃない。
そんなアナタにこの言葉をプレゼンツ。
『恋は盲目』
どうよ?
ベタだって?
ほっとけ!
fin.
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ハイ。スミマセン!
テーマは『ギャルゲーの主人公風デイジー君を書いてみよう!』でした。