Short story*
□『Only you...』
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「あの曲だけはぜってぇダメだ!何度言われてもダメなもんはダメだ!」
音を立てて事務所のドアを閉めた。
『だーかーらぁ。ムリだって言ったっしょー?あきらめなって。』
『そうは言ってもこんなにリクエストが来てるのよ?あの曲をシングルカットして欲しいって』
ドア越しに井上とマネージャーの声がする。
歌うのはいい。
でも絶対あの曲だけは売らねぇって決めてんだ。
『Only you...』
無事にメジャーデビューを果たしたオレたちのバンドは、若干のメンバー変更なんかもあったりもしたけど。
だいたい順調に活動を続けている。
ボチボチTVなんかにも出れるようになって、ライブの観客動員数も上がってきた。
ちっせぇライブハウスなんかも好きだけど。
やっぱりでっかい会場で大勢の客と盛り上がる一体感はスゲェ。
気分がいいときはたまにあの曲を歌う。
あいつの為に。
あいつを想って作った曲。
これはあいつの曲だから。
…売る訳にはいかねぇんだ。
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