Short story*

□キミの好きなトコ
1ページ/2ページ

小さいとこ。
そりゃ俺は男だし。俺よりでかくても困るけど。


サラサラした栗色の髪。
本人は纏まらないって嫌がってるけど。風が吹いてなびく度にいい匂いがするんだ。


真っ直ぐ伸びた姿勢。
しゃんとした背中はあいつの気性そのものに見えて。


でもなによりも


一番なのは


やっぱり笑顔、なんだと思う。




―キミの好きなトコ― 




「どうかした?」


茜色に染まる海岸通りを歩く。
今日はいつもと逆で。
あいつが前を行き、俺が後ろから。


別に理由はないんだけど。
たまにはいいじゃん?


上半身を軽く捻って振り返る。
俺がついて来てるのを確認したらまた前を向いて。


なにがそんなに楽しいんだろう。
弾むように歩きながら。
鼻歌なんてものまで歌ってるし。
「どうかした?」なんて聞きながら、まだ俺なにも言ってないのに。


「…なぁ」

「うん?」


今度は体ごと振り返った。
弾む足も止まって、制服のスカートが翻って。
海風になびく髪を押さえて、微笑む。


夕暮れの逆光で翳ってよく見えないけれど、わかるんだ。


『なにがそんなに楽しいんだ?』


問いかけは言葉にならなかった。
ほんとうに聞きたい事はもっと別のところにあるから。
ただ、眩しさに目を細める。


いつのまにか俺の足も止まってしまう。
あいつはただ俺の言葉を待って、真っ直ぐに見つめてる。


「お前さ……」

「うん」


するりと近付いて来る。
細い腕が伸びて、俺の髪に触れ、風で少し乱れた前髪を梳いた。


また、言葉を飲み込んでしまう。
こめかみのあたりで動く柔らかな指の動きをもっと感じたくて目を閉じた。
触れられた場所がじわりと熱を帯びたようだった。


なぁ。俺が今思っている事。
伝えたら、お前はどんな顔するんだろうな。
いつもみたいに困ったような顔して笑うのかな。
その逆である可能性って一体どれくらいあるんだろう。


お世辞にも俺はこいつに優しくないと思う。
みっともないところも、
情けない姿も、
かっこ悪いところも。
全部見られてる気がする。
その上、意地が悪くてひどい態度も取るし。言い方だって乱暴なのも自覚してる。



それでもお前はいつも側にいて。
時には怒ったり、拗ねたり、泣きそうになったりもしながら。
それでも…ここにいる。


少しぐらいは、可能性に期待してもいいんだろうか。


ゆっくりと瞼を開けてみたら、澄んだ瞳にひどく情けない顔をした俺が映っていて…
目を逸らしてしまう。


やっぱ、だめだ。
もう少し…もう少しだけ、このまま……


もどかしい思いに駆られても、ムズ痒い胸の痛みも。
全部、お前の為にあるものだから。
この想いがもしも、今この瞬間の安らぎを壊してしまうのだとしたら。
俺の全部がどこへ行ってしまうのかわからないから。


そうしてまた情けない俺は、誤魔化しばかりを口にして歩き出す。


いつか、その時が来たらきっと…。


お前の好きなトコ
いくらだって伝えることができるようになるまで

もう少し……な?






NEXT→デイジーside

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ