Short story*
□『キセキ』
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『瑛くん。お誕生日おめでとう!25年前のこの日に、生まれてきてくれてありがとう。』
――ありがとう。
素直にそう言えるようになったのは、おまえのおかげなんだ。
おまえと出会ってから、もう何度もこの日を迎えてきたな。
最初のうちは色々と問題も山積みで。
それでも、自分の誕生日が特別なものだと教えてくれたのがおまえで本当によかったと思う。
慌しく過ぎていく日々は今も変わらず続いているけれど。
1年の内に何度か訪れる『特別な日』。
それはよく知らない神サマの記念日だったり、年の瀬とか始まりとか。
どっかのお菓子メーカーの企みの賜物だったりする日とか。
でもやっぱり自分と、おまえの生まれた日。
これはその中でも一番特別な日だよな?
そんな特別な日は、二人きりでゆっくりと過ごせるようになった。
それがとても嬉しいんだ。俺。
今年、おまえが俺にくれたプレゼントは琥珀の付いたシルバーブレスレット。
『あのね。琥珀の宝石言葉って”夢の実現”なんだって。それにね、覚えてる?冬の日に朝焼けの海に入った事』
覚えてるに決まってる。
『あの時の瑛くんの瞳が、朝焼けの海を反射してキラキラしてて…そんな色に見えたんだ。わたしそれがずっと忘れられないの。すごく…キレイだったから。』
瑛くんにはブルーが似合うと思ったんだけど。って。
ふわりと微笑んだおまえ。
おまえのほうがずっとキレイなのに。
黄金色にも、茶褐色にも変化する不思議な透明感を持った石。
吸い込まれるような光沢に眼を奪われる。
やっぱりおまえ、センスいい。
それに。
”夢の実現”か…。
―今日はおまえにちゃんと伝えたい事があるんだ。
俺、これからもずっとおまえと一緒にいたいんだ。
おまえの隣で笑って居たい。
おまえの側でなら俺は俺でいられて。
おまえとならどこへだって、なんだってできる。
おまえが俺に明日をくれるから、強くなれる。
ありがとう。とか、
好きだ。とか、
愛してる。とか。
そんなんじゃ全然足りないくらい。
俺もおまえも、まだ旅の途中だけど。
この先へは『二人で』歩いて行きたいんだ。
ずっとずっと先の未来まで。
たとえ明日を見失ったとしても。
俺はもう迷わないし、必ず見つけられるってそう思えるから。
―もう二度と手を離したりはしないから。
だから。
「結婚してください。」
言葉にしたらそれはとても平凡で。
飾り気のない言葉だけど。
何よりも伝えたいことは、それしかなかったから。
本当はもっと場所とか誓いの印とか、色々考えたほうがよかったのかもしれないけど。
今、伝えたかったんだ。
かけがえのないおまえに。
―今日、決まった事がある。
”夢の実現”
おまえが琥珀をくれた事。
これってなんだろうな?
『奇跡』?
「珊瑚礁、再開できることになったんだ。」
融資の連絡が入った。
貯金も、準備もできた。
ようやく、歩き出せる道が敷かれたんだ。
おまえは一瞬大きく目を見開いて、それから。
―大輪の花が咲くような笑顔で頷いてくれた。
ホント、なんだろうな。
『奇跡』っていうなら出会えた事も。
その後も。
今までだって全てが『奇跡』に他ならない。
そして今、この瞬間も。
きっとこの先も。
たくさんの『奇跡』を積み重ねて、それが『軌跡』になって。
何十年何百年先。
俺達が歩みを終えたその先までもきっと、続いてゆけるから。
そう、信じられるから。
―行こう?二人で。
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