†お題小説
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「ど、独眼竜!さっきから何だ!?ワシに何か恨みでもあるのか!?」
「Ha!あったら今頃東軍(ここ)にゃいねぇよ。勝ったッつーのに総大将がシケた顔すんな」
政宗の言葉は、半分以上耳に入ってこなかった。
恨み、憎しみがあるのなら、敵対する道を選ぶ。
憎い相手を倒し、恨みを晴らすために…。
絆の力こそ、日ノ本を泰平に導くと信じ戦ってきた。
それは、これから先も変わらない。
だが時折考える。
その戦いの中で、己は知らぬ内に誰かの絆を奪い、恨みを買ったのではないだろうか……と。
己が信念のため、三成から豊臣秀吉と言う絆を奪った時のように……。
だから、……なのだろうか、彼も……。
「そんなに、真田幸村が西軍についた事がShockだったのか?」
淡々と言われたその言葉にこそ、衝撃を受けた。
勢い良く顔を上げて言葉の主を見れば、何事にも揺らぐ事のない強い隻眼とぶつかった。
「なん……」
「真田幸村が石田と同盟を結んだ。―――――そう聞いた時から変だぞ、お前」
己の言葉は、政宗のきっぱりとした声に遮られる。
「真田の行動は理解出来る。―――だが納得は出来ねぇ。――――そんな顔だな」
心内を見透かすように、政宗の口元が笑みに歪んだ。
――――納得していない?
そんな筈はない。
再三に及ぶ同盟交渉に応じず、敵対する意志を見せられた時、こうなるだろうと予測出来ていた。
自分と戦うため、三成と同盟を結んだ幸村の行動は正しい。
元親だってそうしたのだ。
だから納得はしている。
――――しているつもりだ。
「否、納得とか、そんな話じゃねぇな。気に入らねぇんだろ。真田が選んだのが、あの石田三成だった、って事が」
その言葉に、眉間に寄っていた皺が伸びて目が見開かれる。
また、心の中を見透かされたような、そんな気がした。
「……何で、そう思うんだ?」
「Ah?」
そう訊いた瞬間、家康は思わず訊ねた事を後悔した。
短く返した政宗の表情が、一瞬にして不機嫌に歪んだからだ。
「んなもん、俺も同じだからだよ」
不機嫌を隠しもせずそう告げて、政宗は家康に背中を向ける。
その背中からも、不機嫌さが滲み出ていた。
「まぁ、でも逆に考えりゃ正しい判断だとは思うぜ。石田の野郎はぶっ倒しゃ良い。後は真田幸村と戦り合うだけだ」
「そう言えば、お前も真田とは何度も戦ってるんだったな」
「Yeah.俺の魂を滾らせられんのは、あいつだけだからな。
共に同じ道を歩くってのも良いが、どうせなら命賭けて戦って手に入れたいからよ」
政宗の言葉に一瞬、思考が止まる。
"共に同じ道を歩む"
その言葉が脳裏を反芻する。
――――あぁ、そうか、……そう、だったのか……。
唐突に理解した。
こんなにも引っ掛かっていた、その理由を。
一緒に、同じ道を歩いて欲しかったのだ。
幸村に、同じ夢を見て、その夢を実現するため、一緒に戦って欲しかった。
――――否、それは建前に過ぎない。
……ただ、傍にいて欲しいのだ。
例え進む道が違ったとしても、その心、魂は、己の傍らにあって欲しい……と。
あの気高く、純粋な程真っすぐな心も、熱い虎の魂も、彼の、その全てを、己は欲していたのだと…。
何だ、そうだったのか。
己の、余りのお粗末さに、家康は思わず声を上げて笑う。
それには政宗が片眉を吊り上げた。
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