†お題小説
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家康→幸村
同じ武人を師と仰いだとて、彼と己では歩む道は違った。
彼は師の傍らでその手足となり戦場を駆け抜け、己は隣り合う国主同士、天下を賭けて刃を交えた。
彼と刃を交えた事も少なくない。
朱塗りの二槍を存分に振るい、若虎、紅蓮の鬼の二つ名に相応しい戦振りを見せ付ける。
その姿は勇猛にして気高く、時に人を戦慄させ、時に魅了すらする。
幾度も対峙し、その度に敗戦を帰したからこそ、彼の力に惹かれ欲した。
だからこそ、師と仰いだ男の病を機に、衰退の一途を辿る彼に手を差し延べた。
彼なら、この手を取ってくれる。
そんな事を勝手に思い込んでいた。
同じ男を師とする者同士として、己の事を理解してくれると。
……共に、同じ道を歩いてくれる……と。
―――――だが、彼が取った手は、己のものではなかった。
己の信念が為、敵対してしまったかつての友の手を、彼は自らの意志で取った。
―――――己と、戦う、為に―――――。
この結果を、微塵も感じていなかった訳ではない。
それなのに、納得出来ないのは、何故なのか……。
向けられたのは拒絶の言葉。
突き放すような、冷たい瞳。
敵を屠る、二槍の切っ先。
……決して揺るがぬ、敵対の意志――――――。
何度も見てきた筈のそれが、より一層深く胸に突き刺さる。
――――何故……、何故なんだ、真田。
お前は、そんなにも、ワシを――――…。
「――――家康!!」
「――――――――ッ!」
鋭く呼ぶ声に、意識が引き戻される。
途端に戦の喧騒が耳を付き、視界の中で白刃が幾つも煌めいた。
しまった、と思う間も防御する間もなく、青い稲光が眼前を疾る。
悲鳴が幾重にも折り重なり、土埃と共に鮮血も舞った。
思わず呆然とした家康を次に襲ったのは、後頭部への容赦ない衝撃だった。
「あだッ!ど、独眼竜…ッ」
「何ボサッとしてやがる。死にてぇのか?」
らしくねぇ、と付け足して家康の頭を刀の柄尻で思い切りど突いた政宗は、明確な程に呆れの篭った眼差しを家康に向けた。
小突かれた頭を摩りながら、家康は政宗の背中に小さく謝罪した。
そうだった、今は戦の最中だった。
耳を劈く戦の喧騒、怒号、悲鳴、剣戟の金属音。
張り詰めた戦場特有の空気に、余計な事を考えるなと気を引き締める。
バシンッと己の両頬を叩き、気合いを入れ直す。
かつての友に憎まれる事になっても、己の信念のために進むと決めたのだ。
負ける訳にはいかない。
ぐっと拳を握り締め、先に敵陣に突っ込んで行った政宗の後に続いて駆け出した。
その後は特に何事もなく、戦は徳川軍の――――、東軍の勝利に終わった。
しかし、各地で勝鬨が上がる中でも、家康の表情は晴れない。
程なくして、東軍と西軍の総力戦になるだろう。
三成と相対し、命を賭して戦う。
その事への憂いが一切ない訳ではないが、 覚悟は出来ている。
その戦いの果てに、泰平の世があると信じて、この拳を振るう。
そこに迷いはない。
なのに、何故心が晴れないのか……。
「――――――――でッ!!」
再び後頭部に鈍痛が走る。
先程と同じ場所を殴られて、勢い良く振り返ると、背後にいたのは想像した通り政宗だった。
ただ、先程と違うのは拳で殴られた事位か…。
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