†お題小説

□  
1ページ/3ページ






家康→幸村



同じ武人を師と仰いだとて、彼と己では歩む道は違った。


彼は師の傍らでその手足となり戦場を駆け抜け、己は隣り合う国主同士、天下を賭けて刃を交えた。


彼と刃を交えた事も少なくない。


朱塗りの二槍を存分に振るい、若虎、紅蓮の鬼の二つ名に相応しい戦振りを見せ付ける。


その姿は勇猛にして気高く、時に人を戦慄させ、時に魅了すらする。


幾度も対峙し、その度に敗戦を帰したからこそ、彼の力に惹かれ欲した。


だからこそ、師と仰いだ男の病を機に、衰退の一途を辿る彼に手を差し延べた。


彼なら、この手を取ってくれる。


そんな事を勝手に思い込んでいた。


同じ男を師とする者同士として、己の事を理解してくれると。


……共に、同じ道を歩いてくれる……と。


―――――だが、彼が取った手は、己のものではなかった。


己の信念が為、敵対してしまったかつての友の手を、彼は自らの意志で取った。


―――――己と、戦う、為に―――――。


この結果を、微塵も感じていなかった訳ではない。


それなのに、納得出来ないのは、何故なのか……。


向けられたのは拒絶の言葉。


突き放すような、冷たい瞳。


敵を屠る、二槍の切っ先。


……決して揺るがぬ、敵対の意志――――――。


何度も見てきた筈のそれが、より一層深く胸に突き刺さる。



――――何故……、何故なんだ、真田。
お前は、そんなにも、ワシを――――…。



「――――家康!!」
「――――――――ッ!」



鋭く呼ぶ声に、意識が引き戻される。


途端に戦の喧騒が耳を付き、視界の中で白刃が幾つも煌めいた。


しまった、と思う間も防御する間もなく、青い稲光が眼前を疾る。


悲鳴が幾重にも折り重なり、土埃と共に鮮血も舞った。


思わず呆然とした家康を次に襲ったのは、後頭部への容赦ない衝撃だった。



「あだッ!ど、独眼竜…ッ」
「何ボサッとしてやがる。死にてぇのか?」



らしくねぇ、と付け足して家康の頭を刀の柄尻で思い切りど突いた政宗は、明確な程に呆れの篭った眼差しを家康に向けた。


小突かれた頭を摩りながら、家康は政宗の背中に小さく謝罪した。


そうだった、今は戦の最中だった。


耳を劈く戦の喧騒、怒号、悲鳴、剣戟の金属音。


張り詰めた戦場特有の空気に、余計な事を考えるなと気を引き締める。


バシンッと己の両頬を叩き、気合いを入れ直す。


かつての友に憎まれる事になっても、己の信念のために進むと決めたのだ。


負ける訳にはいかない。


ぐっと拳を握り締め、先に敵陣に突っ込んで行った政宗の後に続いて駆け出した。


その後は特に何事もなく、戦は徳川軍の――――、東軍の勝利に終わった。


しかし、各地で勝鬨が上がる中でも、家康の表情は晴れない。


程なくして、東軍と西軍の総力戦になるだろう。


三成と相対し、命を賭して戦う。


その事への憂いが一切ない訳ではないが、 覚悟は出来ている。


その戦いの果てに、泰平の世があると信じて、この拳を振るう。


そこに迷いはない。


なのに、何故心が晴れないのか……。



「――――――――でッ!!



再び後頭部に鈍痛が走る。


先程と同じ場所を殴られて、勢い良く振り返ると、背後にいたのは想像した通り政宗だった。


ただ、先程と違うのは拳で殴られた事位か…。



.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ