†お題小説
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来て早々ドカンと渡された書類に目を通しながらちらりと盗み見た時計の針は、文字盤を縦に真二つに分割していた。
次いで盗み見たのは窓の外。
秋も深まった今日日、日暮れは早く盗み見た窓の外、東の空はもう大分夜の黒に浸蝕されている。
同時に現状の原因となっている敏腕会長の、嫌味な程涼しげな顔も視界に入り、三成は誰にも気付かれないように舌打ちした。
今日は部活もなく、早々に帰れると思っていたのに……。
そう考えれば考える程、苛立ちが募る。
いっそ"あいつから"、電話かメールが来れば……。
そこまで考えて、『あいつの性格では無理か』と、今も校門の前で己を待っているだろう、東国婆裟羅学園の後輩に想いを馳せる。
それと同時に気も逸る。
さっさと任された仕事を片付けようと視線戻すと、目の前の机でパソコンを叩く白磁の佳人が視界に入る。
会長である元就はどうでもいいが、副会長の半兵衛が忙しそうにしている姿は、見るに忍びない。
その考えが狡猾な元就に付け込ませている、とは知らぬは本人ばかりなり、……なのだが。
ついつい視線が時計を追ってしまう。
苛立ちから眉間に皺が寄ってしまうと、不意に視界の端で白が動いた。
「三成くん」
「はい」
柔らかい声に呼ばれて顔を上げる。
尊敬する先輩である半兵衛が、普段と変わらない柔らかい微笑を浮かべている。
その表情に若干の疲れが垣間見えたのは、気のせいではないだろう。
「今日はもう遅いし、君はもう帰っても良いよ」
半兵衛の言葉に顔を上げ、難色を示したのは、この中で最も膨大な量の仕事を熟している元就だった。
その理由は数多あるが、その一番の理由を熟知している半兵衛は、元就の非難の目を綺麗に無視して見せた。
「しかし、まだ……」
「後は僕と元就くんでやっておくから」
「な……ッ!待て竹中!」
己の言葉に不満を声に出して表した元就を再び無視し、半兵衛は「それに」と続けた。
「今日は冷え込むらしいから、心配で集中できないだろう?」
「……ッ!」
半兵衛の言葉に、三成の頬が柄にもなく朱に染まる。
その様子に、元就からの視線に鋭さが増したが、こちらもまた華麗に無視した。
「……すみません。ではお先に失礼します。お疲れ様でした」
「うん、お疲れ様」
見事な程の素早さで帰り支度を整え、三成は便宜上元就にも挨拶して足早に生徒会室を後にする。
その姿を苛立ち100%の視線で睨んでいた元就だったが、最終的に苛立ちをぶつけたのは半兵衛だった。
「竹中、貴様……ッ」
「八つ当たりは良くないよ、元就くん」
至極当たり前な正論を述べる半兵衛の声は、元就の耳にはとことん嫌味に聞こえた。
忙しいのは解っているし、補佐とは言え三成の手腕は十分生徒会役員に並ぶ。
だが、それらを差し引いても彼を解放するべき理由が、半兵衛にはあった。
「…敵に塩を送るというのか?貴様らしくもない」
「僕は別に、三成くんを敵だなんて思っていないさ。それに別に三成くんのために帰したわけじゃないよ」
「何……?」
そう疑問符を呟いてから、その理由に元就も気付く。
そして二人の視線が、校門の方角に向いた。
正確には、そこで三成が出てくるのを待ち続けているだろう、可愛い"あの子"の方に……。
「いつも元気なあの子に、風邪なんて引いてほしくないからね」
「……フン。気に入らんが、その意見には同意してやろう」
どこまでも唯我独尊な敏腕会長様の尊大な物言いに、半兵衛は肩を竦めて苦笑した。
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