†お題小説
□
1ページ/4ページ
三成×幸村 学パロ
暦の上ではまだ秋。
けれど今年は、例年に比べて冷え込む時期が早い。
今日は特に寒い。
日は出ているのに風が冷たくて、夕方からは特に冷え込む。
毎朝同居人が見ているニュース番組の、お天気お姉さんが言っていた通りだ。
幸村はかじかんできた指先を吐息で温めながら、内心で呟いた。
同じ高校や隣校の生徒が目の前を行き交う中、幸村は一人西国婆裟羅学園の校門前に立ち、頻りに時計を気にしている。
校門から誰かが出てくれば視線を向け、時間を確認してはまた校門を見て、溜息と共に呼気を手の平に吐き出す。
ただ只管待ち人を待ち続ける幸村の姿が毎日のように見られるようになったのは、夏休みが開けた日からだった。
――――今日は随分と遅うござるなぁ…。
時間を確認して幸村は心の中でそう呟いた。
制服のポケットから、買って間もない携帯電話を取り出す。
メールや着信を知らせる表示は一切なし。
開いて見ても画面は、初期設定のままの待受画面が表れるだけ。
メールでも送ってみようかな。
そう思ってボタンに手を添えるが、数秒考えて携帯を閉じた。
「――――お、幸村じゃねぇか!」
不意に声を掛けられて顔を上げると、校門から見えたのは待ち人と同色の、けれど元気よく逆立った髪……。
待ち人と深く知り合うようになってから、顔見知りになった人物だった。
「元親先輩」
同じ部活の部員を引き連れてやってきた元親は、校門の前で待っている幸村の姿に怪訝そうな表情を浮かべた。
時間は既に5時を回っている。
「何だ、あいつまだ生徒会の方にいやがるのか?」
幸村が待ってるって解ってんだろうに……。
そう付け足して元親が視線を向けたのは、背後に聳える校舎。
恐らく生徒会室に視線が向けられているのだろうが、残念ながら幸村にはその場所が解らない。
「ケータイ持ってんだろ?電話とかメールとかしてみたらどうだ?」
幸村の手の中にある携帯を指差して、至極当然の事を提案する。
幸村自身も先程考えた事だが、間を置かずに首を振った。
「いえ。忙しいでしょうし……」
迷惑になりかねないから、と笑って言う幸村に、元親は「相変わらずだなぁ」と苦笑した。
「どーせ元就の野郎がこき使ってるだけなんだろーけどなぁ」
あいつも律儀に付き合う必要ねーのに、と元親は小さく呟いて、同じ髪色をした友人の姿を思い描いた。
色々と誤解を受け易い奴だが、意外と真面目な性格なのだ。
……崇拝の域に達する程尊敬している先輩が生徒会役員にいるのも、理由の一つなのかも知れないが……。
何かと謙虚な幸村の事、元親が「呼んで来てやろうか」と提案しても、否と答えるだろう。
生徒会補佐である友人が、幸村を長時間待たせる姿は今回に始まった事ではない。
いつだったか、暑い中一人待ち続ける幸村を見兼ねて、生徒会室に乗り込もうとしたがそれを幸村が止めたのだ。
――――あいつが何かと忙しくしてんのは、大抵元就が原因なんだがな……。
そう内心で呟いて、元親は幸村の頭に大きな手を置いた。
思った通り柔らかい髪をぐりぐりと撫でれば、幸村から慌てた声が上がる。
「ま、あんまり遅くなるようだったら遠慮せず電話しろよ」
それがあいつを救う事にもなるだろうし、とは口にせずそれだけを言えば、幸村は戸惑いながらも小さく頷いた。
その後、元親は早くしないと店が閉まる、と急かす部員達と共に帰路に着く。
楽しそうに歩いていく元親達の後ろ姿を見送って、幸村はまた奥の校舎に視線を向けた。
.