†お題小説

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三成×幸村



石田治部少輔三成。


豊臣軍五大奉行の一人にして、豊臣秀吉の左腕と称された武人。


知略に長けているのみに留まらず、一度戦場に出れば長刀を片手で易々と振るい、
戦場を疾風の如く駆け抜け敵を刹那に斬り刻んでいく。


血水に全身を濡らし、刃の如く鋭い眼には晴れる事のない憎悪を宿し、
         まが
刀を振るう様は正に凶つき王……。

            モノノフ
"凶王"と呼ばれ軍の内外の武士から恐れられている人物だが、幸村の印象はそれとは異なるものであった。


初めて出会ったのは上田だった。


石田軍との同盟の申し入れの文に応じて上田を訪れて来た時、初めて"凶王"と称される彼の人の姿を見た。


共も付けず己一人で来た三成の姿、そしてその眸を見た時、幸村は感じた。


深い悲哀と激しい憎悪に見を包み、それでもただ前を……、仇である家康のみを見据え歩く姿の、何と気高く、儚い事かと……。

           
あの伊達政宗でさえ軽く去なす程の実力を持ちながら、その背中の何と頼りない事か……。


西軍に名を連ね、今日まで何度も彼と共に戦場を駆けた。


その理由は無論、病床に着いた信玄の為、徳川家康と戦う為。


だが、最近はそれによりも、三成の為に槍を振るっている己がいる。


そう気付いたのは最近の事だ。


それは三成が、未来を見ていないと気付いたから……。


彼が見ているのは家康だけ。


正確には、家康の死。


彼の目はそこで止まっている。


彼の中で、己の未来は家康を殺す所で完結しているのだ。


その先にあるのがただの空虚である事さえ、三成の目には見えていない。


それが、幸村には哀しい事だと思えた。


それ故か、三成は"家康を殺す"事以外に何も頓着しない。


食事も睡眠も、休息すらもせず、全ての刻を家康を殺す為の準備に注ぎ、全ての刻を駆けて仇への憎悪を募らせるのだ。



『三成を死なすのは何より容易い。放って置けば良い。さすれば自然に力尽きるであろ』



そう、彼の無二の親友である大谷刑部少輔吉継が、あの独特の笑い声を上げて言っていたのを思い出す。


無論、その後に「そうさせぬ為に我が苦労しておるのだがなぁ……」と笑っていたが。


そこでふと思い出す。


そこからあれよという間に吉継に丸め込まれ、今のような状況に陥っている事を……。



『やれ、奴の面倒を見るは骨が折れる故、我は大層くたびれておる。
真田よ、三成の事を死なせとう無くば暫しそのままで居てはくれぬか?
おぉ、そうか。頼まれてくれるか。流石は音に聞こえし天下の若虎よ。
では、暫し良しなに頼むぞ。我も忙しい身の上故なぁ……。
あぁ、忙しいイソガシイ……』



何と白々しい……。


と、人の良い幸村ですら思ってしまうくらい、清々しい程白々しく宣った吉継に、面倒事を押し付けられたのは先達ての事。


その結果が、満足に身動きの取れない現状、である幸村は溜息を一つ零した。


元来、幸村はじっとしているのは性に合わない。


思案に時間を費やすよりも槍を振るっている方が性に合っているし、
大人しい時と言えば好物の甘味を頬張っている時か寝ている時くらいのもの。


無論、武田の総大将となってからは執務に追われる事が増えた。


だが今のように何をするでもなく、ただ濡れ縁に座って庭を眺める事など先ず有り得ない。


……否、言うなればそれくらいしか出来る事がないのだ。


時折現状を作り出した存在に視線を向けるのだが、一切変わりのない姿に諦めの溜息ばかりが口をつくのだった。



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