†お題小説

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阿修羅の月番外編 小十郎×美久



約400年――――。


言葉で表せば数秒にも満たない。


口にするだけなら、なんて容易い……。


けれど実際の年月を数えてみれば、途方もない長さ。


日数にして凡そ14万6千日。


時間にして、約350万……、……止めよう、考えるだけで気が遠くなりそうだ。


人々の生活、環境、文化、考え方すら変わってしまうには、十分過ぎる程の長さだと言える。


―――空で瞬く星々すら、変わってしまう程の―――……。


――――あぁ、違うか。


夜空から星の瞬きを失わせたのは、我々人間だ。


夜になっても明るい地上に、夜空の星達はいつの間に瞬くのを忘れてしまったのだろう……。


それとも単に、我々が星を見なくなっただけなのか……。


400年という長い年月は、文明開花を引き換えにして大切な何かを失わせた。


或いは、文明開花や時代の移り変わりが、それらを手放させたのだろうか……。



「――――美久?」



不意に、無音だったその場に低い声が上がる。


その声に呼び掛けられると同時に、己の視界に声の主の顔がひょっこりと入って来る。


……己を見下ろす体勢で。



「小十郎さん……」
 こんな所
「濡れ縁で寝転がって何してやがる」



美久を見下ろしながらそう言った小十郎の表情は、実に怪訝そうに歪んでいる。


夜も更け見張り以外は皆、寝静まっているだろう時間。


そんな時刻に浴衣一枚で外に頭を向け、濡れ縁で寝そべっているのだから、端から見れば異様な光景だ。


怪訝な目で見られても気にする事なく、美久は端正な顔に笑みを浮かべた。



「そういう小十郎さんこそ、こんな夜遅くにどちらへ?」
「俺はいつも菜園の様子を見に行ってるんだ。特に明日から暫く城を空けるからな」



小十郎の言葉に"そう言えば"と思い出す。


今日の夕餉の際、政宗から小十郎が野菜作りの達人だと教えられた。


確かに夕餉に出された料理の野菜は、どれも格別に美味しかった。


そして野菜に対する小十郎の思い入れが、並々ならないものだとも、政宗から聞かされといる。


明日は同盟のため、甲斐に向かう事になるから、いつも以上に念入りに様子を見てきたのだろう。



「…俺の事より、お前はここで何してるんだ?明日に備えて早めに休んだんじゃねぇのか?」



そう告げた小十郎の眉間に、僅かばかりに皺が寄る。


咎めるような眼差しと口調に、美久は困ったように笑った。



「そのつもりだったんですけど、妙に明るいのが気になって……」
「…あぁ、今日は星が出てるからな。だが、これくらいなら普通だろう?」



いまだに寝転がったまま夜空を見つめている美久に、小十郎も何気なく夜空を見上げた。


その視線の先にあるのは、小十郎には見慣れた星空だ。


だが、美久にとっては見慣れない光景だった。



「私が生まれた時代では、これ程見事に星は見えません。見ようとするなら遠出したり、専用の道具が必要になります。
――――正直、星がこんなに明るいなんて、初めて知りました」
「それで、星を見ていたのか。…それは良いが、なんで寝転がってんだ?」



夜空から美久へと視線を戻し、訝しげに首を傾げた。



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