casket


愛情たっぷりのご褒美
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今日は阿部の家で鍋パーティーだ。
その日は阿部の家族が泊まりに出て、阿部は一人で留守番らしかったから、じゃあ集まって鍋やろうぜって話になったのは数日前。
都合がついたのは、泉と田島、三橋、そしてオレの四人だった。
いや、正確に言うと初めのうちは、ちょっと甘い夜を過ごそうぜってな雰囲気でいたつもりのオレと阿部だったんだけど、オレが「夕飯だけど、鍋なんてどう?暖まりたいよねぇ」なんて部活終了後の着替え中に言ってしまったのがまずかった。
どっから聞いてたのか、鍋って言葉に敏感に反応した田島があれよあれよという間に話を鍋パーティーに発展させちゃったんだよね。

みんなが、行ける、行けない、行く行くーって話で盛り上がり始めちゃったら、もう、ね。みんなで楽しむしかないよね。
そうして決まってしまった鍋パーティー。
ちょっとだけオレは凹んだ。
オレは阿部に「クソレフト」となじられた後、お尻にぼすっと膝蹴りをくらった。
阿部の膝蹴りは愛情でいっぱいだったけど、蹴られたお尻はちょっと痛かった。







愛情たっぷりのご褒美







「あべー、コーヒー煎れたよー。…冷めちゃうよー?」


鍋パーティー当日、オレはみんなより一足先に阿部の家にお邪魔していた。
少しでも多く阿部と二人でいる時間を作りたかったからなんだけど、オレがそういう気分でいるとき阿部は大概つれない。
つれないことにプラスして彼は多分、この間のことをまだ根に持ってるんだと思う。
オレがみんなより少し早く阿部ンちに行くことを阿部はオッケーしてくれたけど、喜び勇んで行ったら、実際はあれやれこれやれの使いっぱしりオンパレードだもん。


『飯作れ』

『洗濯物洗って干しとけ』

『渇いてる服は畳んでしまえよ』

『茶を煎れろ』

『食器も洗っとけよ』

『茶が温い!』


って、オレは阿部ンちの家政婦かなんかなの!?
つーかむしろ嫁と姑かよみたいな。
オレ、阿部が窓際に着いた埃を人差し指で、つつーっと取って「まだ汚れてるんだけど」とか言ってきても多分もう驚かないよ!
もうマジで根に持ってるとしか思えない。
そして今はコーヒーをご所望されたご主人様、じゃねェや、阿部にコーヒー煎れて持ってきたのに肝心の阿部は寝てるっていうね。なんなのよ。
あ、でも寝顔カワイイ。

コーヒーをテーブルに置いたオレは、こたつで気持ちよさそうに寝てる阿部の側に腰を下ろすとその寝顔をじっと観察する。
少し幼いような、あどけなさを感じる寝顔がなんだか微笑ましい。
それから人差し指で軽く阿部のほっぺをつついた。そうするとちょっと嫌そうに眉を寄せたからオレは「ごめんね」って言って小さく笑って、今度はつついたほっぺを撫でる。
暫く撫でてたら阿部の目がぱちっと開いた。
オレは手を離すと、ふふーと笑う。


「おはよ、そんなとこで寝てたら風邪ひいちゃうよ?」


阿部に起きるように言ったところで調度、玄関のチャイムが鳴った。
更にチャイムが連打されたからそれをしたのはきっと田島で、止まったところをみると多分止めたのは泉だ。


「泉たち来たみたいだから、オレ出るねぇ」

「水谷、ちょっと」

「ん?なーにー?」


寝てた阿部が体を起こしたから、阿部が出るのかなあとか、それならオレも付いていこうとか思ってたら突然、唇に何かが触れた。


「!」

「…ご褒美。好きだろ、不意打ち」


触れたのは阿部の唇。
ちくしょー、やられた。


「っ…好きだけど、する方が好きっつーか…あーっ、もう!なにニヤニヤ笑ってんの!?」


ズルイよ!
汚いっ、汚いよ阿部!
あーもう、満足そうな顔しちゃってさあ。
かわいいなあ、もう。


「出ねェの?」

「出るよ!もー、後で覚えときなよねっ!」


泉たちの出迎えにオレは立ち上がる。
顔が熱い。オレの顔はきっと真っ赤だ。
阿部があんなことするから、オレは照れちゃったよ!

後で覚えときなよねって、悪者の捨て台詞みたいだと言ってみて思ったのは内緒。

END




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