casket


上と下と危機一髪
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『ジャンケンポン!』

「あっち向いてホイ!」

夜も深夜を回る頃、あっち向いてホイに興じる若者二人は水谷文貴と阿部隆也である。






上と下と危機一発






彼等が何故、夜更けにこんなことをしているかというと、それは少し時間を遡る。



次の日は休日である。その前日の夜に恋人同士が揃ってやることといえば大体相場は決まっているもので、不思議なことに恋人同士というその枠に当て嵌まってしまう彼等もまた例外ではなかった。

甘い雰囲気の中抱き合い、深い口付けを交わす。
場所はベッドに移して水谷が阿部をリードしているとそれに対し不満に思った阿部が水谷の舌を噛んだ。それが事の発端である。


「いっ、…ッ!か、噛んだ!?ねぇ、いま舌噛みませんでした!?」


「信じらんねェ!」と叫ぶ水谷を一先ず無視した阿部は心の中で「危なかった…」と呟いた。
危うく今日も流されそうになったからだ。
体を起こすと水谷からフイ、と目を反らす。


「俺も男だし…」

「…嫌だった?ごめんね」

「ちげーよ、嫌なら初めから体なんて許してねぇし。嫌ではねーよ、ただ、だったらいいかっつーと……」

「うん…」


水谷は阿部の言葉を待った。言葉を濁す阿部に頷き続きを促すが、その先は何となく予想が着いているのか聞きたくないなという面持ちをしていた。


「抱かせてくんねぇ?」

「っ…」


予想通りである。やっぱりかあ、といった思いを抱くと同時に真剣な表情で告げてくる阿部に水谷は思わずクラリと軽い眩暈に襲われた。顔が火照る。
うっかり流されて「いいよ」と返しそうになった。寧ろそう返してもいいかなと思えてきた水谷だ。
特別な想いを寄せた相手から求められるのは悪くない。


「阿部、勝負しない?」

「は…?」


決して悪くはないしそれはとても幸せなことと思えるのだがしかし、水谷だって男だ。あんだとかやんだとかそういった阿部のいやらしい声を聞きたいし阿部のいやらしい姿をそれはそれはもう拝み倒したいのである。しかし決して阿部はあんだとかやんだとかそんな風には啼かないが。
だから水谷は勝負を持ち掛けた。しかし阿部は露骨に嫌そうな面倒臭そうな顔をした。
少し手応えを感じていたからかもしれない。あと一歩詰めが甘かったかと思って阿部はガシガシと頭を掻いた。

そうして負けたら下の勝負が始まったのだ。
現在のあっち向いてホイに至るまでトランプ、格ゲー、腕相撲、オレのターン!ドロー!などとしてきた彼等だが双方共に譲らず気が付けば深夜になっていた。






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