casket


Autumn Flavor
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地元に帰って来てから数日、弟の相手にも飽きて親の小言にうんざりしてきた頃、一人でランニングでもしようと家を出た

最近は三橋にも会い、また野球が近いものに感じられて日々が充実してきた
昔の野球データのノートを見ると笑える
時間の流れとはこんなにもブランクを表すものだろうかと考えさせるところや、自分がちっぽけで何も知らなかった時代を垣間見て恥ずかしかったりと、なかなか暇はしなかった

だけど、見終えて毎回嫌な気分になる
このままオヤジになってしまうのは、あんまりにも悲惨ではないかと三橋に会えて改めて感じたからである

今は走るくらいしか学業の忙しさがあるので出来ないが、それでは終わらさせない
バス停を幾つか通り過ぎた、籔沿いに走る
森林浴が出来そうだと下らない事を考えながら足を前に前に運んで行く、あまり走るときに出来る風以外の風は吹いていなくて、とても走りやすい
リズム良く前に進む日だ

ふと、気配を感じ後ろを向く…
少し離れた場所に見慣れたカーディガンがくたくたになりながら追い掛けてきた

「は、は、やぁー」

「………」

「っちょ、待って」

こんな気持ちの良い日に待つ気も無くまた俺は走り出した
普段の倍くらい行けるんじゃないかと思っていたところで、息をきらせている水谷になんてカマけて等いられない


爽やかな空気に紅葉した鮮やかな葉、見慣れた緩やかな坂に広がる青い空は真っさらな気分にさせてくれる

横で頭を上下に苦しそうに揺らしながら並列してくるヤツは、とても不釣り合いなオプションだと横目に思った

「阿部っ、ちょ、普通は止まるでしょ、何でいるかとか、訊くでしょっねえ!」

「…何でいんの?」

「冷たい!その言い方冷たいよぉ!」

「……で?」

速度を緩めずに走る、何だかんだで追い付いて来ているのには関心した、したけれどあまりにお粗末な姿に笑いそうになる
グレーの薄手カーディガンにリュックを背負った水谷は、容姿で何とかカバーしているけれど俺が見てもダサいスタイルだ

「…ってゆーか、何で阿部そんな余裕で走ってんの現役?まだ現役なの?!」

荒々しい呼吸で話続ける水谷
お前喋っているから余計呼吸が整わなねーんじゃねぇの?と先程から思っていたが、自分のリズムを崩したくないので口にしない
というか、分かるだろ

足場が砂利に変わる

「あ、そうだ、途中の空き地行こうよ」

「は?」

「あそこ前々から思ってたんだよ、いい感じだなって、だからさ」

「…は?」

ずんずんと進んで行くと、水谷の言う空き地らしきポカンと空いている狭い場所に着いた
まわりが木々に囲まれ、どうしてこんな所にスペースをとろうとしたのか疑問だ
赤や黄色に染まるであろう葉が微かな風にゆれていた
下にはわさわさと乾燥しつつある葉が広範囲に落ちていて、きれいだ *

しかしここで立ち止まる理由を理解をしていない俺は、そんなにぼんやりしていられない

「うはぁ〜いいねぇ、秋が来たって感じがしていいねぇ」

水谷はカーディガンを脱いでTシャツになりリュックに入れる

「…」

「じゃっ、準備しよぉ」

「……」

「おーい、阿部聞いてるかぁ?」

手を目の前でひらつかせ、覗き込んでくる
いつのまにか呼吸が正常になっている辺り、まだいい
「用件を端的に言え」

「っえ…あれ?言わなかった?焼き芋でしょ?」

「はあ??お前焼き芋の"や"の字も出してねーよ」

"や"の字だけ出されても分かるはずが無いが、こいつの気持ちが前に前に行って説明が下手くそで大事な部分からぶっ飛ぶ性格には、高校時代から苦労してきた

まさか、今も健在だとは
困った奴だと、肩が重たく感じる

「焼き芋、やるっしょ?」

「何で焼き芋」

「おばあちゃんが送ってくれたんだぁ、でっ阿部がこっちに来てるって阿部ママに聞いたから、そこら歩いてたら会えるかなーって」

正直、何だそりゃ……としか思わなかった
約束も無しに、近所を芋をリュックに入れて俺に合うためにうろついていたのかよ
どこから突っ込んだら良いとか、そういう次元ではなくまずは連絡すれば良かった話ではないだろうかと真面目にため息が出てしまった






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