椿の華

□第一訓
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ただ、椿の花の香りにつられて────






第一訓
知らない人には勝手についていくなって何回言えばいいの?




『………』


素足の少女はただ空を見上げていた。
小鳥がじゃれあいながら翔ぶのを目で追っていた。
その時、落ち葉を踏んだ音がし、その方向へ顔を向けた。


『……誰?』

『おうおう、お嬢ちゃん。こんなとこで、どうしたんだ?』


にこにこと笑顔の男の人がやってきた。


『別に……金もないし、居場所がないから、こうやって空を見ているだけ』

『居場所がないって……』


男は不思議に思った。
ただ、この小さな少女を何を言うかと…。


『私はただこの世には必要ないと言うわけだ』


少女はなんとも、思っていないような顔をしながら平然と男に告げた。
男は少し黙り考え込む。


『………』

『なんだ、同情でもしてんのか?』

『お嬢ちゃん、この世には必要ないものなんてないんだよ』


男はにっこりと少女に笑いかけた。
なぜ、そんなことを言い切れる?、少女は言葉に出さずに顔に出した。


『名前は?』

『普通、人の名を聞くときは自分から名乗るものだ』


男は苦笑いしながら答えた。


『そ、そうだったな!!俺は近藤勲』

『私は…花咲 椿』


『花咲 椿…か…、いい名前だな』


近藤は椿の頭を撫でながら言った。
椿は少し心地よさそうに近藤の手を受け入れた。
椿は下を向きながらボソッと呟く。


『…親から初めてで最後になる、プレゼント…なんだ』


さっきとうって変わって、悲しそうな声をしていた。


『そうか…じゃあ、』


近藤は椿を立ち上がらせ、抱き上げた。
ふわりと椿の花の香りがする。


『なんだ?』

『俺のとこに来るか?』

『え?』

『剣術を教えているんだが…』

『い、いいのか?』


椿は少し嬉しそうに言う。行き場がなく、自分はもう死しかないと諦めていたが、希望の光が差し始める。


『椿ちゃんがいいならな。それと俺のことを、家族だと思ってもいいぞ』

『…ありがとう…』


椿は慣れない笑顔を近藤に向けた。
それは素直な心。

近藤は嬉しそうにと、道場へと戻っていった。

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