小説 参

□朧月夜に舞う蝶は 2
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プロローグC 奈良シカク


『なぁ、オヤジ。樹海の森北地に、人って住んでるモンか?』


何気ない息子の言葉に、俺は、もう少しで持っている湯飲みを落としてしまう処だった。

シカマルの母親、つまり現在の妻に出会うより前


俺は1人の女と出逢い‥愛していた。今でも彼女は、俺の心を掴んで離さない。


黒ヰ 軽穂―――


引っ込み思案で、穏やかで、口数の少ない それでいて、いつも笑顔を絶やさない
芯の強さと しなやかさを秘めた‥‥

人を疑う事を知らず、だが、驚くほどに記憶力や洞察力に優れた どこまでも美しい彼女と
初めて出逢ったのは、もう20年前になろうか。


『私に関わってはいけません。私達は、里の役立たず。存在そのものが恥であり、陽の当たる場所に居る事を
許されておりません。後生ですから、その手を どうぞ御放し下さい‥シカク様‥‥。』


たった1度きりの契りは、月のない新月の夜。


しなやかに弾ける肢体と、しっとりと手のひらに吸い付く様な極上の肌。
彼女のドコが役立たずなのか、どうしてそこまで自分の事を卑下するのか。
軽穂の事しか考えられない、もう彼女しか見えない‥‥


そんなある日、彼女はプツリと消息を断ってしまった。


‥‥いつもの様に 北地へ戻ったまま―――
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