小説 壱

□はかない月明かりの下で
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生きるとは 人とは 心とは そして 愛とは何なのだろう・・・。


それは美しい三日月だというのに
まるで その姿を見せるのが惜しい、とでもいう様に雲が邪魔をするという
無粋な夜だった。

午前二時―――

月の光が見え隠れする中、一人の忍(しのび)が何の気配もなく匂いもなくスッと現れた。
忍者特有の煙幕もなければ、木の葉の吹雪もない。
ただ 何もないそこに 現れたのだった・・・。

こんな月の夜は・・・嫌いなんだが・・・。

忍は苦笑しながらも美しい姿勢のまま立っている。
時折降りるはかない月明りに、左耳に付いている紫色アメジストのピアスがキラリ と光った―――瞬間、

ほんの少し眉を寄せたその忍は、何もかも悟った様に小さくため息をつくと
静かに目を閉じた。

「キリエ・・・何の躊躇もいらん。殺(や)るなら一思いに殺れ。」
忍の声に、足元の草がザワッと揺らめいだ。
同時に背後から―――

「・・・鎖鎌か・・・。」

シュルシュルと鋭い光を放つ大鎌が、忍の背中めがけて飛んで来る。
しかし、それには小さな悲鳴も含まれていた。

――・・・サラ・・・お願い・・・よけて・・・っ!!――


―――ドスッ―――

鈍く嫌な音がすると同時に、忍の両ヒザはガクリと地面へついた。
背中の真ん中には鎖鎌が刺さったままになっている。

「ぐ・・う・・・っ・・・。」

苦しそうに喘ぐと両手も地面につき、四つんばいの姿勢でかろうじて呼吸を確保する。
そこへ よろめきながら何処からともなく別の忍が現れた。
こちらは見るからに『くノ一』と判るいでたちをしていた。

茶色の長い髪をポニーテール状にしばったその『くノ一』は、何の傷も負ってないというのに
顔はすでに土気色をしており息も絶え絶えだった。


「どう・・・した・・・キリエ・・殺るなら・・・一息で殺れと言ったのに・・・。」


忍は、四つんばいのまま『くノ一』へと近付いた。
しかし、『キリエ』と呼ばれたそのくノ一は ついにその場に倒れてしまった。
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