小説 壱

□はかない月明かりの下で 3
7ページ/9ページ

「ごめん・・・・・。」


ひとしきり イルカの腕の中で声を殺して泣いた後、サラはポツリと呟いた。
イルカは優しく微笑むと、サラをベットに座らせ 自分も目の縁に残る涙を そっと拭った。


「キリエと君は、小さい頃からずっと一緒だったからな。月隠れの短い寿命の為に、
家族として暮す時間が少ない事を考えれば 君とキリエは家族以上・・・だもんな。」

サラは言葉がないまま、イルカが持って来てくれたギンモクセイの枝に咲く 小さな薄黄色の花に視線を向けた。


「さっき・・・キリエが言い残した『あの事』の、話なんだけど・・・・。」

そう言うと、イルカは少しだけはにかんだ様にうつ向きながら 頭を掻いた。
サラは、そんなイルカを不思議そうに眺めながら尋ねる。


「あの・・・・事・・・・?」


「ああ。サラは、その・・月隠れ一族は、自分の『実本体』は 意識して変化を解かないとなれないし、
変化を解く事自体 禁じられてる・・・だろ・・。」

イルカの話し方は、何だか随分と歯切れが悪かった。

「うん・・・そうだけど?」

「それが、君達月隠れには・・その・・自分の意思に反して変化を解かれ、実体をさらしてしまう時があるんだ・・。」


―――ドクン・・・―――


サラの心臓が高鳴ると同時に、暴れだした。

――自分の意思に反して変化が解かれる――

彼女の脳裏には、『あの日の夜』がフィードバックされる。


はかない月明りの下―――
近くで見る彼の銀髪は とても美しく
触れると とても柔らかく
包み込む腕は逞しく 寄せる胸は広くて
たまらなく息苦しい程の・・・


「サラ・・・?!どうかしたかい?」

イルカの言葉に、サラは あわてて顔を上げた。

「ビックリしただろ?そんな事聞かされて・・・。」

「え・・ええ。」

俯くサラに、イルカは更に歯切れを悪くして言葉を続けた。


「君達・・・月隠れ一族が、意思に反して実本体をさらしてしまう時、それは、愛する人と、その・・結ばれた時
だそうだ。」


―――ドクンッ!!―――


サラの心臓は、壊れる程の高鳴りを続け
思わず彼女は、自分の胸元を強く掴み 前かがみになった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ