小説 壱
□はかない月明かりの下で 3
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「ごめん・・・・・。」
ひとしきり イルカの腕の中で声を殺して泣いた後、サラはポツリと呟いた。
イルカは優しく微笑むと、サラをベットに座らせ 自分も目の縁に残る涙を そっと拭った。
「キリエと君は、小さい頃からずっと一緒だったからな。月隠れの短い寿命の為に、
家族として暮す時間が少ない事を考えれば 君とキリエは家族以上・・・だもんな。」
サラは言葉がないまま、イルカが持って来てくれたギンモクセイの枝に咲く 小さな薄黄色の花に視線を向けた。
「さっき・・・キリエが言い残した『あの事』の、話なんだけど・・・・。」
そう言うと、イルカは少しだけはにかんだ様にうつ向きながら 頭を掻いた。
サラは、そんなイルカを不思議そうに眺めながら尋ねる。
「あの・・・・事・・・・?」
「ああ。サラは、その・・月隠れ一族は、自分の『実本体』は 意識して変化を解かないとなれないし、
変化を解く事自体 禁じられてる・・・だろ・・。」
イルカの話し方は、何だか随分と歯切れが悪かった。
「うん・・・そうだけど?」
「それが、君達月隠れには・・その・・自分の意思に反して変化を解かれ、実体をさらしてしまう時があるんだ・・。」
―――ドクン・・・―――
サラの心臓が高鳴ると同時に、暴れだした。
――自分の意思に反して変化が解かれる――
彼女の脳裏には、『あの日の夜』がフィードバックされる。
はかない月明りの下―――
近くで見る彼の銀髪は とても美しく
触れると とても柔らかく
包み込む腕は逞しく 寄せる胸は広くて
たまらなく息苦しい程の・・・
「サラ・・・?!どうかしたかい?」
イルカの言葉に、サラは あわてて顔を上げた。
「ビックリしただろ?そんな事聞かされて・・・。」
「え・・ええ。」
俯くサラに、イルカは更に歯切れを悪くして言葉を続けた。
「君達・・・月隠れ一族が、意思に反して実本体をさらしてしまう時、それは、愛する人と、その・・結ばれた時
だそうだ。」
―――ドクンッ!!―――
サラの心臓は、壊れる程の高鳴りを続け
思わず彼女は、自分の胸元を強く掴み 前かがみになった。