小説 壱

□はかない月明かりの下で 3
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二人の間に、沈黙の時間が流れる。
サラが ゆっくり体を起こしたのを合図に、イルカは深く息を吐くと


竹筒の栓を抜いた―――


サラサラと優しい音をたて、キラキラと輝くその白い砂は まるで生き物の様に
ひとりでに竹筒の中から舞い上がると、生前のキリエの姿へと形を成してゆく。
細かい粒子で綴られたそれは、まさにキリエの姿 そのものだった。


「キリ・・・・・エ・・・。」


先に声を上げたのは、サラだった。
人前では決して涙を見せない彼女が、声を詰まらせ 流れる涙をそのままに
空中に浮かぶ光るキリエへと、両手を差し出した。
すると、鈴の様なキリエの声が二人へと降りてくる。


『泣かないで・・・・どうか 悲しまないで・・。』

その声に、イルカとサラは ハッとなり 光るキリエを見つめた。

『イルカ・・・黙っていて ごめんなさい。2年前のあの夜、あなたと契りを交わした日 
私はあの子を身ごもりました。あなたの本心を尋ねるのが怖くて・・一人で産んだ私を許して下さい・・。

母の死を乗り越え、いつか父をも超える男になって欲しくて『クジラ』と名付けました。 
幸いにも、この子には『月隠れの印』は ありません。平和慣れした私達の体からは、もう
『月隠れの印』のある子供は生まれ難くなっている様です。

それを知らない大蛇丸は、次々に月隠れの幼子をさらっては その力を得ようし、叶わないと知ると 
その子供を盾に親を使いだしました。
愚かな私は、奴に息子をさらわれてしまった・・・。』


キリエの瞳から、光る涙がハラハラと流れた。
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