小説 壱

□はかない月明かりの下で 3
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ほんの一瞬  浮かんでは消える残像の様な叫び
それは確かに  本音であって  本音ではない


「そんな事 わかっている・・・・・・。」


柔らかな羽毛枕に顔を埋めたまま、サラは低く呟いた。

背中の痛みは、形(キズ)を残すだけで 心の痛みまでは取り去ってくれない。
でも、聞こえてしまった私は・・・・・・
一瞬でも その人の『心の叫び』を聞いてしまった私は・・・・・・

それが 大切な人であればある程
私の心は、幾度となく 切り裂かれてゆく。


「フッ・・・私の心など、どうでも良い という事か。」


死ぬ事すら自由に選ぶ事ができない 生かされた『人間兵器』・・・・。
小さく呟きながら、サラはドアの向こうに立つ人物へと声をかけた。


「・・・・イルカ・・・・どうしたの・・・・入っていいよ。」


ゆっくりと首をひねり、入り口ドアに声をかけると ドアが『キィ』と高い音を立てて開く。
そこには少しやつれた アカデミー(忍者学校)で教職を取る中忍、イルカが立っていた。


「見舞いが遅くなって悪かったな、サラ。」

辛そうにサラの背中の包帯を見ながら微笑むと、イルカは枕元のテーブルにあった花瓶に
ギンモクセイの枝を一つ挿した。


「ムリしないでいいよ。傷付いてるのは、私より あなたの方だろうから。」

「俺はもう大丈夫だ。ありがとう、息子を助けてくれて。あと・・・これなんだが・・・・。」

そう言うと、イルカは竹筒を取り出した。
それは、サラがキリエの遺体を細かい砂にして詰めた あの竹筒だった。


「それ・・・キリエの『残光砂』じゃない。どうして此処へ持って来たの?」


「月隠れの者が死ぬと、骨も何も一切残らない。こうして残留思念を含む『残光砂』になって戻って来るのは 
本当に稀な事だと、聞いている。それは、きっとキリエが そうなる事を望み、また、分かっていたんだと思う・・・。
だからサラ、君の前で これを開けようと思って。」


「開ければ一度きり・・・砂は風に乗って無くなるのよ。」

「わかってる。」

「クジラに見せなくていいの?」

「クジラには俺がついている。大丈夫だ。」
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