小説 壱

□はかない月明かりの下で
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「キリエっ!!」

叫ぶと同時に忍(しのび)の背中に激痛が走る。


「サ・・・ラ・・・ごめ・・・ん。」
「喋るな!間違いだと言え!手がすべっただけだと!!」
忍の必死の呼びかけに、キリエは力なく微笑んだ。

「ダメ・・・だよ・・・ウソは・・・音隠れの連中に・・・息子を・・さらわれて・・・アンタを殺せ・・・と。
お願い・・・あの子を・・クジラを助けてっ!!あの子は・・イルカとの・・・子なの・・・お願い。」

「わかった!わかったから、もう喋るなっ!!!」


「サ・・ラ・・・ごめ・・ん・・・ね・・・。」

「キリエ――――――ッ!!」

キリエの体から力が抜けてゆき、忍が握っていた彼女の右手から温もりが徐々になくなっていった。

「キリエ・・・リミッターまで外されて・・・。」


どのくらいそうして手を握っていただろうか。
しばらくすると、シューッ という音と共にキリエの体が変化(へんげ)した。
茶色だった髪は赤褐色に、黒い瞳は緑色に・・・・。


「アンタの『実体』・・・二回目だね・・・見るの・・・。」


そう呟くと忍はキリエの手を胸の上に組み、瞼をそっと閉じさせると立ち上がった。
ゆっくりと印を組むと、透き通る声で小さく呪文を唱える。
するとキリエの体は、小さな光る砂の様なものへと変わってゆく。


そして、その美しい砂は忍の腰に下がっている『竹筒』の中へと、静かに入っていった。
竹筒の栓をしっかりと閉めた忍は、印をほどくと背中に突き立ったままになっていた鎖鎌を引き抜き、投げ捨てた。

ジャリッ―――


呻き声一つあげずに、抜いた鎖鎌を足元へと落とす。
背中からはドクドクと血が流れているというのに―――

どういう訳か、足元へと広がるおびただしい血も 鎖鎌にベットリとこびりついた血も
次から次へと・・・消えてゆく・・・。
そしてまた気配もなく忍は姿を消した。
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