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□ハルシオン-黄昏の空に-
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2.王子
「変なやつ」
その夜、シークは暗い天井を見上げてそう呟いた。
時計は既に12時の鐘を鳴らし終え、ゆったりと時を刻む。
「変なやつ」
シークはもう一度そう呟いた。
昼間のことを考える。
ニノという、少女。
桃色の髪の美しい少女。
笑ったり、悲しい顔をしたり、よくわからない少女。
自らを捕えたはずの国の王子に手を差しのべ、「謝らないで」なんて言葉を告げる少女。
「始まりの色」なんて、訳のわからないことを言い出したり、挙げ句の果てに「花を持って来て」だなんて、話の趣旨が見えない。
なんだかシークの知らないところで勝手に話を進めいる気がする。
「はぁ・・・変なやつ」
シークは本日何度目になるかわからない言葉を呟いた。
でも、
そんな変なやつのことで頭がいっぱいだ。
普段なら今日だって、ただ荒れ果てた故郷を見て終わるはずだった。
ただ漠然と世界を見つめ、絶望していただけだった。
・・・それは自分の命を心配しているということではない。
この国の民は疲弊しすぎている。
反乱など起こす体力も財力も、もう残されてはいない。
だからと言って国を心配しているわけでもない。
昼ニノとの会話の最中、もしニノがシークの言葉を遮らなかったらシークは言っていた。
「こんな国、なくなってしまえば良い」と。
もちろん、シークが心配しているのは国民のことでもない。
彼らにとって、今の状況は酷い。
酷い現実だ。
そこまでしか考えられない。
荒れ行く大地を見ても、それしか思えない。
自分が今の現状を変えようなどと考えたことがない。
ではシークは何を考えているのか。
シークは自分に絶望している。
王子の身分で、何も考えられず、何もせず世界を眺める自分。
そのうち石像にでもなってしまいそうなほどシークは何もしない。ただ呼吸をしているだけだった。
母がいた頃、シークはもっと笑っていた気がする。
「父のような立派な国王になる」そう言って勉強や魔法の練習に明け暮れていた。
母がいなくなって、全てが変わった。
父は母のいない寂しさを紛らわすかのように戦争を繰り返し、領土を拡大していった。
最初は良かった。
仮にも戦争が起きているのだから「良かった」という表現は適切ではないだろうが、良かったのだ。
国民には戦いの報酬として土地を与えていたし、武器の製造、武術学校や魔法学校の設立・・・それは国を潤し、皮肉なことに戦争によって国は豊かになった。
でもそれも長くは続かず、民は疲弊し、父は狂ったように戦争を続ける。
そこに、シークの憧れた父の姿はなかった。
シークの夢見る理想の国はなかった。
そしてそんな絶望を目の当たりにしたシークは生きる意味も、己の意思をもなくし、今度は自分に絶望した。
「はぁ、なんなんだよ」
シークは再び少女のことを考える
「花なんて、どうだっていいじゃないか」
悪態をつく。
しかし、そう呟くシークの顔は優しく微笑んでいるかのようだった。
ー「2.王子」ENDー