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□004たんぽぽ
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君に、この花を見せてあげたい。



********たんぽぽ********


「ねえ、ゆうとくん。」
幼なじみのはなちゃんが僕に言う。
「‘タンポポ’ってどんな花?」
はなちゃんはにこにこしながら不思議そうにそう聞いた。
「いきなりどうしたの?」僕が聞くと、彼女は持っていた絵本をこれ。と言って指差した。
「ゆうとくん、どんな花なの?」
絵本だから絵は描いてあるのだけれど、彼女の目には映らない。
字も見えているわけではなく、指先で凹凸を読み取っているのだ。
そう、
彼女は生まれながらにして目が見えない。
辛うじて光の明暗が感じとれるくらいだ。
「そうだなぁ、背丈ははなちゃんの手よりもちょっと大きくて、太陽の子供みたいな顏してるよ」
はなちゃんは少し考えて、「ゆうとくんが前に説明してくれた‘ヒマワリ’みたいな感じ?」と首を傾けながら僕に聞いてきた。
「うーん、ヒマワリは真ん中の種が少し暗い色なんだけど・・・」色というものを知らない彼女に、僕は彼女が分かるような言葉を選んで言った。
「タンポポはね、全部が明るい色で、小さくても強くて、はなちゃんみたいに笑ってるんだよ。」
はなちゃんは一瞬ぽかーんとした顔をして首を傾げたけど、直ぐにいつもの満面の笑みで、
「タンポポって素敵な花だね。」
そう言っておさげ髪を少し揺らした。
そんな彼女の仕草が堪らなくなって、そっぽを向いた。
そうでもしないと僕の真っ赤な顔が彼女に見透かされてしまいそうだったから。

そんなことを知ってか知らずか、病室のベッドから彼女は白い光の差し込む窓の方を見ていた。
「はなちゃん、」


「なあに?」


僕は彼女に微笑みかけて、
「タンポポを探しに行こうか。」
そう言って彼女の車椅子をベッドの横に置いた。
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