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□002花火
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全てのものが、いづれ終わりを迎えるのなら、私はひっそりと儚く散る、線香花火になりたい。







「しなのっ!今の見た?大ーきいねぇ!!」
私は友人と夏を締め括る花火大会に来た。この花火大会を境に、だんだん朝晩の冷え込みが目立つようになり、葉も色づき始める。


夜空に咲く大輪の花、
音と振動が響き渡り、全身でその存在を感じることが出来る。
これでもかというほど散っては咲き散っては咲きを繰り返し、最後の一輪は会場全員の心に染み渡る。


「う・・・わぁ!綺麗!!ね、しなの!」
「うん、綺麗、綺麗・・・だね」


綺麗、
だけど・・・・・・

「しなの、どうかした?」
「ううん、何でもないの。」


綺麗だけど、



花火大会も終盤、
最後の一輪が大きく響く。そして一時の静寂。
花火大会は終わりを告げた。



「・・・寂しく、ない?」
広がる水田の間を2人で歩く、ちらほらと花火を見ていた人たちの姿も見えた。
「何が?」
隣の友人は首を傾げる。
「花火が終わると、何か失ったような、寂しい気分になるの。」
遠い夜空に浮かぶ星を見て言う。
「・・・お兄さんのこと・・・?」
数年前に行方不明になった兄のことだ。
「打ち上げ花火みたいに大きな存在がなくなってしまうと・・・」
友人は心配そうにこちらを見た。


「だから私は線香花火になりたい。
小さく儚く、散って行く線香花火。
それならみんな寂しく・・・・・・」
言いかけると、小さな友人がいきなり私の前に立ちはだかった。
「寂しいよ!私は、私は!線香花火が散る方が悲しいんだからね!」
涙目の膨れっ面に思わず笑顔になってしまう。
「・・・帰ろうかっ。」
笑って歩き出す私を一足遅れて友人が追いかける。
「うわっ!しなの酷ーい!!待ってよー!」





全てのものが、いづれ終わりを迎えるのなら、私は、線香花火になりたい。
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