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□007銀河鉄道の夜
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「パパ、ここどこ?」
遊羅が息子を連れて来たのは彼がかつて通っていた中学校だった。
「ここでパパとママは出会ったんだよ。」
少年は静かに言う。昔を懐かしむかのように。
「そうなのっ?」
煌太はそう言うと嬉しそうに校門から校舎を覗きこんだ。
時計を見ると、もう6:00を回っていた。日も短くなり、下校時刻も早まったのだろう。校庭で練習をしていた野球部は校庭をならし始め、サッカー部も片付けをしているところだった。


ー草上くん
秋風に乗って、ふいに彼女の声がした気がした。
花桜(サクラ)という名にふさわしい、優しく温かな少女。誰よりも素敵な、春の陽光のような笑顔を持っているのに、上手く笑えていなかった、遊羅の愛した人。ー草上くん。
思わず泣きそうだった。
懐かしい彼女の声が聞こえた気がして。
「パパ?」
小さな息子が心配そうな顔で遊羅を見つめる。
「どうしたの?」
そういうと煌太は遊羅の足にしがみついた。
「あ・・・」
息子の小さな手から伝わる温もりに、涙をぐっとこらえる。
「ごめん。今、さく・・・ママの声が、聞こえた気がして・・・」
そう良いながら遊羅は煌太の頭を撫でた。
「え!ママがいるの!?」煌太は目を輝かせて遊羅を見上げた。
黒目がちな大きな瞳は花桜そっくりで、希望に満ちていた。
「うん。もしかしたら近くにいるのかもしれないね。」
にこりと笑うと、遊羅はまた息子の背中を押した。
「でも、そろそろ帰ろうか。」
短くなった日はもうとっくに傾いていて、手は冷えきっていた。
「えー。ぼくもママの声聞きたいよおー。」
煌太は口を尖らせて言った。たがそう言う煌太の顔も秋風にさらされ、冷たくなっていた。
「きっとママはいつも煌太のそばにいるよ。」
そうなだめると、煌太は少し考えるような顔をした後、満面の笑みでうなずいた。
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