頂き物

□迷惑な愛情表現
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「くらー!ご飯食べに行こー!」


「あー、わかった!わかったから抱えるな!!」




いつも通りの昼。


いつも通りのやりとり。


いつも通りの会話。


内蔵助は、いつも通り犬千代に抱えられて食事に行く。


…もちろん、不本意だが。




「犬千代さん!内蔵助さん!」




部屋に向かう途中、かさねに会った。


犬千代は呑気に「かたねだー!」とはしゃいでいたが、内蔵助はげっ、と顔をしかめた。




「犬千代さんと内蔵助さんっていつも仲良いですよね」


「?俺とくらは昔から仲良いんだよー!」


「あぁ、やっぱりそうなんですか?」




頭悪そうな会話だ、と内蔵助は思う。



(というか俺を抱えたまま会話をするな!!)



バタバタと体を動かし、下ろせと犬千代に伝える。


が、犬千代は違うように受け取ったらしく…




「あ、ごめんくら!早くご飯食いに行きたいよな!」


「……………(違ぇよ!)」




心の中で突っ込むが、犬千代には軽くスルーされた。


ここで叫ぶと他の人も集まってくるため、出来るだけ怒鳴りたくはない。


まぁ、皆もう見慣れたのだが。




「じゃあな、かたね!」


「はい!私はもうご飯食べたんで、これから洗濯に行きますね。何か洗うものとかありますか?」


「んー…ない!くらなんかあるかー?」


「……ねぇよ。それより下ろせ」


「ないってー!」


「下ろせよ!」


「わかりました!じゃあ行って来ますね!」


「うん、じゃあなー!」


「聞けぇぇ!!」




結局耐えきれず、怒鳴ってしまった。


でも犬千代はまたスルー。



「ほら、行くぞくらー!」

「下ろせぇぇえ!!」



犬千代は笑顔で内蔵助を抱え、部屋へと向かった。

内蔵助はバタバタと抵抗するが、残念ながら内蔵助の力では犬千代に及ぶはずもなく、結局そのままの状態で部屋に行くことになった。




部屋に着くと、犬千代は自分の隣に内蔵助を下ろした。



「いっただきまーす!」

「……いただきます」



目の前に出された食事を食べる。

味からして、この煮物は五郎左が作ったのだろう。

で、この米を炊いたのは多分かさねだ。

まだ少し固い。



「おかわりー!」

「なっ…食うの早ッ!」



内蔵助は隣を見てぎょっとする。

自分の倍はあった食事が、既に平らげられていたからだ。



「くら食うの遅いー」

「うるせぇ!俺はよく噛む派なんだよっ!」



内蔵助がギャーギャー言っているうちに、犬千代が内蔵助の食事をパクパクと食べ始める。

そしてあっという間に空になった。



「…!!てめっ…バカ犬ー!!」



内蔵助は犬千代を追いかけ回す。

それを見て、周りの人達はハァ、と息を吐いた。



「ほら、内蔵助。貴方の方が年上なんですから、少し大目に見てやって下さい」



いつの間にか部屋に入って来ていた五郎左が、内蔵助に言う。

内蔵助は少しむぅ…となっていたが、舌打ちをして「わかったよ…」と言って引き下がった。



「犬千代もですよ。自分の分は食べたでしょう?内蔵助の分を取ってはいけません」



五郎左が言うと、犬千代はぶーと口を尖らせた。

「いいですね」と五郎左が念を押すと、犬千代は渋々「はーい」と返事をした。



「よし。では、私はかさね殿のところへ行きますね」



そう言い残すと、五郎左は部屋から出ていった。



「くらー!」

「なんだよ…」



ご飯を食べ終わり、一息吐いていると犬千代が話しかけてきた。



「なー、組み手しよー!」

「ハァ…わかった」



内蔵助はその場を立つと、木刀を持って歩き出した。

その後ろを、犬千代がぴったりとくっついて歩き出す。

あまりにもベタベタしてくる犬千代に、内蔵助は苛つきを覚えた。

実際、歩きづらいし迷惑だ。

そう思っていると、犬千代が話しかけてきた。



「くら!」

「何だよ?」

「あのな、俺くら大好きだよ」

「…っ!?///」



いきなりの告白に、内蔵助の顔は一気に赤くなる。



「ななな何っ…おまっ…///」



内蔵助が混乱していると、犬千代がにぱっと笑った。



「何って、だから俺はくらが大好きだよって言ったの。ねぇくらは?」

「俺はって…///」

「俺のこと、好き?」

「っ…!!///」



あまりにも直球に聞いてくる犬千代に、内蔵助は返答に困る。

犬千代はキラキラした目で内蔵助を見る。

内蔵助は耐えきれなくなって、ボソリと消えそうな声で言った。



「好きじゃなかったら今一緒にいねぇよ///」

「…!!くら!」

「おわっ!?」



犬千代が勢い良く内蔵助に飛び付く。

内蔵助はその反動で後ろに倒れる。

そのせいで端から見ればまるで犬千代が内蔵助を押し倒しているみたいになってしまった。



「いっつー…」

「あ、ごめんくら!」



犬千代が慌てて謝る。

内蔵助が「取り敢えずどけ。重い」と言ったため、犬千代はすぐに内蔵助の上からどいた。

そしてしゅん、となって内蔵助を見る。

犬に例えたら耳が垂れ下がっているような感じだ。



「ハァ…別に怒ってねぇよ。ほら、組み手するんだろ?行こうぜ」

「!うん!」



内蔵助が言うと、犬千代はぱぁっと笑顔になって返事をした。


(全く…)




迷惑な愛情表現だ。



(まぁ、嫌ではないけれど)

(でも、)



もう少し時と場合を考えて欲しい



(そうすれば、いくらでも一緒にいてやるのに)




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