鳥さんに頂きました!!
持ち出し厳禁!!
18禁も含まれるため気をつけてください〜。
自己責任ですよ〜。


八咫烏

(ヒルまも軍人シリーズ)

軍隊にあって、女はとかく異端だ。
まず男より力も弱いし、情に流されやすい。
それでも武官であればそこらの男顔負けに鍛えているが、彼女は文官だった。
どう見ても戦いには向いていない。
ましてや部下との間がうまくいってないとあれば、誰もがなぜこのポストに彼女が、と首を傾げるだろう。
・・・実際、一番『何故』と尋ねたいのは他ならない姉崎まもり元帥自身だった。

「し、失礼しましたッ!」
悲鳴を上げて逃げ出す部下を、まもりは一瞥して自席へ戻った。
ヒル魔の副官になってから、お飾りの時とは違った実務的な事務処理が増えていた。
当然今まで本だけ読んで作戦を作っていればよかったのが、それだけではすまなくなっていた。
大量に回ってくる決裁文書はヒル魔の後まもりに渡る。官位だけで言えば順当なのだが、なんとなく面倒だ。
自然と人の流れというのが出来てしまって、今まで開かずの扉状態だった入り口のドアは堂々と開閉を繰り返す。
まもりの今まで閉じていた、静かな生活というのが遠くなってしまった。
「おーおー、何部下イジメてんだ?」
「あなたじゃあるまいし、何もしていません」
ニヤニヤと笑うヒル魔の出現にも、まもりはちらりと視線を投げただけだ。
やや乱雑に積まれた書類を彼の前に出す。
「ア?」
「お返しします」
「決裁が終わったなら置いとけよ。別の奴が取りに来るだろ」
それにまもりは眉を寄せた。
「却下です。こんな伝票は認められません」
まもりが返却したのは、銃の購入費用に混ぜ込んだ食料品―――簡単に言えば嗜好品の数々についての伝票だ。
「細けぇな。俺が通したんだ、そのまま判子押せ」
「嫌です。ちゃんと用途を説明できなければ返却です」
軍費はどこから出てると思ってるんですか、血税ですよ! という説教にヒル魔は面倒そうに舌打ちした。
「テメェ貴族のくせして妙に金に細けぇな」
「当たり前です。これだけのお金があれば本が4冊は買えるんですよ」
「アァ?!」
ヒル魔の呆れた声に、まもりはぺらぺらと伝票の金額を見つめる。
「あの戦術書と・・・地形図と・・・軍歴と・・・推理小説・・・」
少々ウットリしたまもりの声にヒル魔が鋭く突っ込んだ。
「おい、最後の推理小説は関係ねぇだろ」
「私が個人的に買うなら、です。とにかく食料については項目も違いますし用途も軍事とは関係ないですから、却下します」
それに片眉を上げたヒル魔はおもむろに何かを取り出した。細く、小さい何か。
「なんだと思う、姉崎」
訝しげなまもりの前でひらりと晒されたそれは・・・彼女の決裁印。まもりの目が見開かれる。
ヒル魔はにやりと笑うとそれを返された書類にほいほいとリズミカルに押してしまった。
「あーっ!! なにやってるんですか!」
「返す」
ひょい、と投げ返されてまもりは慌てて引き出しを開く。
そこには自分の印鑑はなくて、確かにこれが決裁印だった。
全く、いつの間に持ち出したのか。
「・・・自分で押すなら私の決裁なんていらないでしょう!」
怒るまもりに、ヒル魔はにやにやと笑うばかり。
「テメェが書類ばっかり見てるからだ。ちゃーんと部下見てりゃ、この伝票くれぇで目くじら立てねぇぞ」
「・・・」
まもりがむっと眉を寄せてヒル魔を睨め付ける。確かにここに就任してからもまもりは相変わらず本の虫で、外になど出ない。
一度彼女の作戦が実行されるところに行ったけれど、今のところ出陣要請がないためあれ以来戦場にも出ていない。
今のところ部下との接点は書類を持ってくる数人のみに留まっていた。・・・あとヒル魔が来るくらいで。
「部下イジメてんのはどっちかナァ?」
性質悪く笑うヒル魔に、まもりは盛大に眉を寄せ、明日にでも隊の様子を見に行こう、と決めた。

爽やかな朝日の中、まもりはこっそりと隊舎内を歩いていた。
別にこっそりする必要はないのだが、ヒル魔に言われたとおり見て回るのが癪に障るから。
早朝にもかかわらず、訓練場は熱気に包まれていた。
ドアの隙間からまもりは中の様子を伺う。
剣を練習する者、投げナイフを練習する者、短銃を構える者、槍を構える者・・・。
通常は単一の武器を使う者を纏めて一個隊とし、戦うのが常識的戦略といわれているが、この隊は違っていた。
彼らはそれぞれの隊からつまはじきにされてこちらにやって来た者たちで、半端と言われる技能しかないはず。
けれど彼らは押しつけではなくそれぞれの特性に合った武器を選び、研鑽している。
熱心に、そして何より楽しそうに過ごす面々の顔がイキイキとしていた。
自分の前では怯えたようにかしこまる部下たちがしゃんと背筋を伸ばし、真剣に話し合っている。
そこに反対側の入り口からヒル魔がやって来た。
彼は銃ではなく剣を携えており、珍しい姿にまもりは目を丸くする。
「手合わせしてやろう」
「おっしゃあああ! 俺一番!!」
「あっ、畜生! 俺二番!!」
「じゃあ俺三番」
わいわいと名乗りを上げる部下達は、確か一番手が名を黒木、二番手が戸叶といったはずだ。
三番手になった十文字と合わせて三兄弟と呼ばれている。
彼らはがんじがらめの軍則に耐えられず堕落した面々だったはずだが、今は違うのか。
重量のある大剣を構える黒木に対して、ヒル魔が持っているのは随分と細い。
どちらも模造剣だが、当たれば当然怪我はする。
審判を買って出たムサシが声を掛けた。
「始め!」
「どりゃあああ!!」
「ケケケ、叫べばいいってもんじゃねぇぞ!」
かけ声と共に突っ込んでいく黒木にヒル魔は防戦一方だ。
一気にやれ、叩きつぶせ、悪魔を倒せ、だのヤジが酷い。
普段なら眉を寄せて倦厭する騒々しい場所にも関わらず、まもりは目を離せなかった。
ヒル魔の動きがまるで剣舞でもしているかのように滑らかだったから。
黒木は大剣を使っていても相当動きが早かった。彼の特性によく合っているのだろう。
それでもヒル魔は一瞬の隙をついてするりと彼を避け、剣の柄で彼の脳天に一撃喰らわせる。
「がっ!!」
くらりと脳震盪を起こしたらしい黒木が膝をつく。
「勝負あり!」
ムサシが止めるのを見て、十文字が黒木に近寄って肩を貸す。
ヒル魔がその背に声を掛けた。
「糞タラ口、あんなに大振りしてりゃ避けられるに決まってんだろ! もっと考えやがれ!」
「う〜〜、スピード上がったからいけるかと思ったのにィ・・・」
「ああもう寝てろ、お前」
十文字が黒木を横たえる後ろでヒル魔が声を上げる。
「次!」
「でやあああ!」
彼は息一つ乱さず、次の戸叶の相手を始める。
その姿はまるで人ではない、別の生き物・・・そう、烏のようだった。
はるか東方の国では、金色に輝く烏がいるのだという。
彼はまさにそれではないか。
よく見れば彼の持つ剣も東方の『刀』によく似ている。
誰にも囚われない、金色の烏。
神々の使いだと言われるそれの如く人を近寄らせない存在。
適当なところで一旦休憩を挟むらしく、そこでいそいそと栗田が食べ物やら飲み物やらを用意する。
それを口にしながら隊員達はまた戦い方の話に夢中になっている。
なるほど、これが必要だと言った訳か。
まもりは輪の中心で甘い物を寄越した隊員を足蹴にしているヒル魔を見る。
その様子を見る隊員達は声を上げながらも楽しげで。
戦うときは手の届かないところの生き物のようなのに、今は誰よりも人の輪の中にいて。
―――自分とは大違いだ。
まもりはきゅ、と唇を咬んでその場を立ち去ろうとして。
ヒル魔と視線が合って固まった。
彼は『ホレ見た事か』というような表情で、にやりと口角を上げる。
まもりは怒りに眉を寄せながら自室へと戻ったのだった。

・・・その胸に浮かんだ感情をもてあましながら。

午後、部屋に部下がまた書類を携えてやって来た。
「あの、姉崎大佐、決裁をお願いします・・・」
朝方はイキイキと動いていた部下の一人、セナが上目遣いにこちらを伺っていた。
まもりはじっと彼を見る。萎縮した姿は朝とは別人のようだ。
「あ、あの・・・」
す、と差し出された手に躊躇いながらセナはその書類を渡す。
今までは机の端に置け、という仕草だけだったのに。
まもりはその書類をざっと見て、それからおもむろに判子を取り出した。
「え、あの・・・」
「何か問題が?」
戸惑うセナに、まもりの涼やかな声が問う。
それに滅相もない、と首を振りながら、すぐ返却された書類を受け取る。
今までなら伝票を見るたびに眉を寄せ、不機嫌そうにその場に留め置いてすぐ退室を促されたのに、今日は違う。
内容は昨日までと変わっていないのに、なぜだろう、とセナは首を傾げた。
退室しようにも、こちらを見て何か言いたそうなまもりに口出しできず、セナは動けない。
何か不興を買ったか、と怯えるセナにまもりは小さく嘆息した。
「私は、怒ってる訳ではありません」
「はいっ?!」
「元から表情が乏しいので、怒っているように見られるだけです」
「そ、そうなんですか?」
どもりながら答えるセナに、まもりは意識してふ、と目元を和ませた。
セナの目が見開かれる。
「ご苦労様。お行きなさい」
「はっ、はぃいいいい!!」
それにセナは顔を真っ赤にすると猛スピードで部屋を退室した。
入れ替わりにやって来たヒル魔はセナの挙動に眉を寄せている。
「また部下イジメか?」
「・・・労った、んですけど・・・」
なんで逃げられるんだろう、と当惑するまもりにヒル魔はにやりと楽しげに笑った。
まもりはそれに悔しさに似た感情を覚える。
朝方に浮かんだ感情と同じ、どろりとした醜い・・・何か。
そして聡い彼女はすぐ気が付いた。
これは、嫉妬だ。
自分にはない魅力を持ち、部下に慕われるこの男に対しての。
にやにやと楽しげなヒル魔を完全に無視して、まもりは嫉妬なんて覚える自分を恥じるようにガリガリと作戦を練りだした。
・・・誰が嫉妬なんて覚えるものか。
こんな男、なんかに。

それが全ての切っ掛けだった。

―――その嫉妬が次第に形を変えたとき、まもりはその感情に蓋をして、見ないふりをした。
ひっそりと知られないように葬り去るつもりの想いだった。
結局はそれも暴かれてしまって、今があるのだけれど。

それももう何年も前の話。
ベッドの上でまもりはふ、と口元をほころばせた。
それをめざとく見つけたヒル魔がまもりを抱き寄せる。
「ア? 何思い出し笑いしてんだ?」
「あなたの副官になった頃を思い出したのよ」
今はもうすっかり馴染んだ体温に怯えることなく身体を預け、まもりは視線を遠くに投げる。
「あの時、私あなたに嫉妬したんだったわ」
「ア? 俺に?」
「ええ。だってこっちの事はお見通し、部下には慕われてるし、強かったし」
「過去形にすんな。今もだろ」
「そうですけどね」
幾つも修羅場をくぐり抜け、お互い元帥に大将という地位まで上り詰めたのに、未だ二人は戦場に立つ。
それが軍人だ、というヒル魔の信条にまもりももはや諦め反論せずその背を守っている。
するりとヒル魔の腕がまもりの身体に回った。
「テメェの事はお見通しなんだよ」
「っ!」
前触れもなく、胎内に滑り込んだ指にまもりはひくんと身体を震わせた。
先ほどまで絡み合っていた身体はようやく熱が引いて落ち着いてきたのに、再び埋火をかき回して再燃させるような動きにまもりは身を捩る。
拒もうにも、既にヒル魔に開発されきった身体は頭とは裏腹に喜んで彼の指を受け入れた。
「ちょっ・・・、さっき、シたばかりじゃ・・・」
「ア? あんなんじゃ足りねぇよ。テメェだって思い出し笑いする余裕あんだろ」
「違・・・」
ぐちゅ、と熱の名残に潤む胎内を遠慮無くかき回され、まもりはひくひくと身体を震わせる。
抵抗しようにもヒル魔の腕はがっちりとまもりを捕らえていて放さない。
鍛え上げられた痩躯は底知れぬ力を秘めている。
そして数え切れない程身体を重ねていて、もう彼女の弱いところなどヒル魔には筒抜けなのだ。
「ん!」
先ほども執拗に愛撫された乳房に再び唇を寄せ、新しい跡を付ける。
軍服が詰め襟で本当によかった、とまもりは浮き上がる痣に赤面する。
胸元が開いたような服は彼と夜を過ごした翌日には到底纏えない。
「まもり」
名を呼ばれ、唇を合わせる。
深いキスを交わせば、僅かに残っていた抵抗も霧散する。
「・・・明日も早いんですから、ほどほどにお願いします」
せめてもの抵抗を口にするも、ヒル魔はにやにやと笑うばかり。
「ケケケ、そりゃ約束出来ねぇナァ」
「くぅ!」
ぐい、と秘裂を開く指にまもりは瞳を閉じてしまう。
「テメェだって生半可じゃ満足しねぇだろ」
「や、そんな・・・」
じゅぷじゅぷと音を立てて挿入される指にまもりは必死で声を押さえようとするが、長い指がとうに知り尽くした弱点を幾つも攻撃してくる。
「は・・・っぁ・・ぅ、ひぁ・・う・・!」
ぼろぼろと涙を零してまもりは身悶える。
既に一度絶頂に導かれているので、快楽の道筋を身体は従順に追いかけようとする。
それを逃さずヒル魔はまもりの弱いところを余さず吸い上げ、時に噛みついて追い上げる。
鋭利な歯が柔肌に突き刺さる感覚にまもりは細い悲鳴を上げた。
「痛ぁ・・・」
「イイくせに」
くっくっ、と喉で笑い噛みついた跡を舐めてヒル魔は腰の熱塊をまもりに押しつける。
諦め悪く逃げようとするまもりを自らの上に強引に引き上げ、その手を自らの肩に載せた。
「あ・・・」
「腰落とせ」
ぐい、と既に熱く潤んだ秘裂を押し広げようとするヒル魔自身に、自ら腰を落とす格好にまもりは小さく怯える。
「やぁ・・・妖一・・・」
「怖がるな」
その熱がもう自らを脅かさないと知っていてもなお、切り開く凶器のような代物を自ら迎え入れるのは躊躇われる。
それに焦れたようにヒル魔はぐい、と腰を突き上げた。
「ひゃう!」
ずぷ、と音を立ててあっけなく入り込んだヒル魔自身の切っ先にまもりは短い悲鳴を上げた。
「ほら」
「くぁああ・・・!」
にゅちゅ、じゅぷぷ、と聞くに堪えない程濡れた音を零しながらヒル魔の雁高い自身を飲み込んで、まもりは身悶える。
豊かな胸を揺らしながら喘ぐ様に、ヒル魔は口角を上げ、舌なめずりをする。
柔らかな双乳を両手に収め、ぐい、と押せば、胎内で角度が変わってまもりの腰が更に滑り落ちる。
「ふァあ!」
垂直に腰を落とす格好になったまもりをヒル魔が下から突き上げる。
「は・・・っ、腰、もっと動かせよ・・・ッ」
「や、無理、だめぇ・・・」
ぐちゃ、にゅぷ、と腰を上下させる度に背筋を突き抜け、脳裏で弾ける快楽の光にまもりは溢れる涙と声を惜しみなく零す。
勿論それはヒル魔も同じ事。熱を貪ろうとする内壁に悪寒にも似た快楽を得ながら彼は笑う。
自重で最も奥を抉られる刺激は強烈で、まもりは舌先まで引きつらせながら快感に喘ぐ。
「妖一、・・・よぅ・・・いっ・・・!」
名を呼び、涙でぶれるヒル魔をそれでも見つめる。
夜闇にも彼の輝く金色は鮮やかだった。
いつでもまもりの事を導く、希望の光。
先導する金色の烏。
「ひゃ、あ、ぁあ・・・!!」
「く・・・」
びくびくと柳腰を震わせ、胎内に弾ける熱にまもりは喉を詰まらせながら達した。


ぐったりと意識を失ったまもりの後始末をざっとこなして、ヒル魔はまもりをその腕に抱き込んだ。
嫉妬した、というのを聞いてどれほど自分が喜んだが、まもりは気づいていないだろう。
彼女の世界は、かつては本と作戦だけで出来ていた。
閉じて静かだった世界を変化させたのが他ならない自分だというのが純粋に嬉しい。
彼女が視線を向けるのであればそれが嫉妬でも恋慕でも構わない。
まもりの指針であり続けるため、彼はこれからも戦場に立ち続けるのだ。


けれど金色の烏も時には休息を必要とする。
唯一休める止まり木たる彼女を抱きしめ、彼は心地よい気怠さに包まれながら、そっと眸を閉じた。

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