夢(ロックオン)
□イタズラ
1ページ/5ページ
「兄さん!お願いがあります」
「いやだ、お前のお願いはロクな事がない」
最近兄さんは冷たいぜ。
何か再就職が決まったらしいが、どこなのか教えてくれないし。
暫く会えなくなるとか言ってるし。
「頼むよ〜、俺合コンって苦手なんだよ。しかも先方の幹事、俺を指名らしいんだよ〜」
合コンなんかしなくても、この容姿のお陰で女には不自由はない、だいたい俺はそんなん苦手だし。
「バカだろ、ライル。そんなもん経験だ、変なのに食われないように頑張れ」
しっしっと言わんばかりに手であっちいけとされる。
「可愛い弟の貞操の危機だぞ!?」
「何が貞操だ、人の女に手を出すくせに」
「あんな女!俺と兄さんの違いも解らないなんてオカシイだろっ?」
普通…最低でもベッドで気づくだろ?
自分の彼氏かそうでないかくらい。
「ラーイールー、反省してないな?お陰で俺は別れる事になったんだぞ?」
「兄さんにはもっといい女とじゃなきゃ釣り合わないからさ。良かったじゃないか」
兄さんは頭を抱えてる。
「それよりもさ、明日なんだよ、合コン」
同じ顔の大型犬が尻尾を振ってる様に見える。
「頼むよ、な?兄さん!」
合コン…なんでこんな所でするんだ…。
先方の意向だそうだが。
洒落たダイニングバー、照明は女性が最も美しく見える明るさ。
ライルは事前に情報を俺に渡してくれていた。何度か入れ替わった事があるのでコイツの友人も分かっている。
「とりあえず穏便に合コンを終わらせたいんだ。別にどの女も興味ないし。そこそこ愛想良く、機嫌を損ねないように、なるべく頑張れ、兄さん」
二人は上から下までお揃いで、まるで鏡に映したみたいだ。
「お前…簡単に…」
「兄さんなら出来る!ホラあんまり待たしたら変だろ?俺は家で待機してるから」
ため息をつきつつ、テーブルに向かった。
「遅くなってすみません」
そう言って空いてる席に座る。
女性陣がざわめく。
「ライル!遅いよ、先に始めてたぜ」
「ああ、いいよ。こっちが悪いし」
「じゃ、自己紹介、始めましょうか?」
女子の幹事が仕切り始めた。
苦味だな、こういうの。
一通り自己紹介を終えて、質問が飛び交う。
意識されてるのが分かる、気を引こうと胸の谷間を寄せ、テーブルに身を乗り出す女の子。
可愛いというか、無邪気だな。
会話はまったくつまらない、ただ料理が美味いのとアイリッシュビールが美味い。
それだけが救いかな。
「合コンに来てるって事は彼女いないんですか?」
俺はにっこりと営業用スマイルで
「今はいないね」
「じゃあ、この中で誰が一番好み?」
「甲乙つけがたいなぁ、あんまり困らせないでくれよ」
曖昧な笑みを浮かべて、適当に話をかわす。
随分気に入られたようでしつこいくらいに話しかけてくる女の子。
名前何だっけ、覚えるつもりも無かったからな…。
ふと、目にとまった赤い唇、あまり肌色に合わないな…。
赤い色は白くてキメの細かい肌色に合うと思うんだ。
駆け引きと適当な愛想笑い、友人よりでしゃばらず、女の子を不快にさせない、難しいよな。
「私、ライルみたいな人スッゴい好みなの」
テーブルの上に置いていた俺の手の上に、女の子の手が重なる。
これだから密着度の高いダイニングバーは嫌いなんだ…。
にっこりと…女を腰砕けにするとびきりの笑顔を浮かべて、優しく手を握る。
「ありがと、嬉しいな」
ああ…また、どーでもいい女には効くんだこのスマイル。
お酒があまり強くないのに、楽しいんだろう、たくさん飲んでハイテンションになる女の子を尻目に…俺は俺を夢中にさせてくれる女はいないもんかと考えていた。
ライルとの事がなくったって、前の女とは別れると思ってた。
何か…夢中になれなかったからだ。
いいきっかけになったくらいだった。
ライルも知ってか知らずか、そういう相手にチョッカイをかける。
だから俺も本気で怒れない、アイツは自分が悪者になって俺を守ってくれてるんだ。
家族がテロで死んでから、二人きりの家族…。
俺達の絆は強い…。
兄さんの部屋に帰ってきた。
俺達は別々に暮らしてる。
兄さんは仕事の関係で、しょっちゅう引越しをする。
今はたまたま近くに職場があるせいで、俺の部屋に近くなっているが。
それもまた、離れ離れになる…。
俺は上着をソファに放り投げ、兄さんのベッドにダイブする。
あ…兄さんの匂いだ…。
俺、この匂い嗅ぐとスゲー安心するんだ。
兄さんの好んで使うコロンとか、シャンプーとか、何でも兄さんとおんなじものを使う。