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□blue passion
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働き者の居候。


それが一ヶ月前から俺の家に住み着いた。








彼を森で見つけたとき、全身泥だらけだった。



本人は沼に落ちたと言っていたが、泥を落としたときに現れた美しい顔に俺は息を飲んだ。




詳しく聞いてみると彼は街からこの森に逃げてきた、と苦しそうに伝えてきた。


自分の家に嫌気がさした、と。



そんな彼を無下にすることもできずに、じいちゃんに相談し家に置くことになった。






初めは慣れなかった俺も、数日でこの青年の優しさを知った。


常に気を利かせて、世話をしてくる。



その優しさに俺はどんどん引かれていった。




『真之介!はい、これ今日の昼飯!』




にこやかに微笑み、俺にピンク色の布に包んだお弁当箱を手渡してきた。


それを無言で受けとる。


今日もこの笑顔に見送られ仕事に行けと思うと心が暖かくなる。







幸せとは、このことだろうか。




黙っていなければ、顔がにやけてしまう。





一緒に過ごしてきた中ですっかり彼に骨抜き状態にされた真之介。




『………』


『今日の夜は真之介の好きなのにするからね?』




それを気にせずにふわりと目の前の男が笑うと、周りに華の蜜のような香りが漂った。



その香りに目眩がする。




『……えへへ』




ふるふると震える腕で、自分よりも小さな男を抱き締める。



まるで壊れ物でも扱うように。




抱き締めたら、下から幸せそうな声が聞こえてきた。



毎朝のことなので、じいちゃんは空気を読んでこちらを出来るだけ見ないようにしてくれていた。




そんな二人は、お互いがお互いを想い合っている状態だった。




『……行って、くる』




正直に言ってしまえば離れたくない。



彼の笑顔を一日中見ていたい。



こんな気持ちになったのは初めてだ。




名残惜しそうに真之介は離れていく。




『いってらっしゃーい!』



耳に残る甘い声に見送られる。







その声を耳に残したまま森の番人でもある俺はいつものように、巨大な生き物のいる森に足を進めた。






+++






『本当によぅ働くのう…』


『いえいえー!これくらい俺に任せて、おじいさんはゆっくり寝ていてください!』




雑巾を持ち、部屋を隅々まで綺麗にしていく。



この男二人だけの家に彼が住み着いたことで、前よりも生活感が溢れてるようになった。



本当によく働く若者だ。


それに美しい。


毎日の目の保養になる。





ほっほっほっ、と自慢の髭を擦りながらまた布団に横になる。





この男も、彼と真之介の関係を概ね認めていた。




『いや、君には感謝しておる…。真之介では、まともな飯にもありつけんからな…』




ふー、と一息吐いて、寝ているおじいさんにお茶を淹れる。




すでにこの家に馴染みきっている青年。




おじいさんがしみじみと休憩している俺に言ってきた。





それに少し苦笑いで答える。




真之介が料理が出来ないのは本当の事だから、フォローのしようがない。




『……その、俺なんかで良ければずっといます……』




ずっと真之介の側に…。





えへへ、と幸せそうに微笑む。俺は真之介と一緒にいれるだけで幸せだから。




あの真っ暗だった生活から逃げて、やっと手にいれた幸せ。





幸せを育んでいく充実感。





真之助の端正な顔立ちを思い出して、頬を染めた。




『うんうん、君さえ良ければずっとここにいるといい』




彼の照れたような行動はいつものこと。おじいさんはにこやかに口を開いた。







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