小説(Ice)

□「愛しいキミ*SIDE:A」
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〈3〉





「あれぇ?
 そこを行くのは彼女に浮気されて
 クリスマス前に別れちゃった、
 跡部くんじゃねー?」

「ギャハハハ、
 お前そんな言ったらカワイソウじゃーん。
 いっくら、ホントウのことだからってさぁー」


彼女と別れて一日も経たない内に
大学の構内で顔も知らない野郎共から、
公衆の面前で謂われのない嘲笑を受ける
羽目に陥った理由を考えながら
侮蔑した目線でねめつけてやると、
愚か共にも伝わったらしい。

見る見る内に不細工な顔を、更に醜く
歪ませてぎゃあぎゃあと叫び出したが、
滑舌悪く声も汚らしいせいで
聞くに堪えない。
そう言ってやったら、
奴らは今にも殴り掛かってきそうな
気配を滲ませた。

ギャラリーも増えていたが、
多勢に無勢のこの状態の証人には
丁度良い。

一度叩きのめしてやれば、
五月蝿い小蠅も多少は静かになるだろう。

オレは一つ息を吐いて向き直って、
軽く拳を握りしめた。

だがしかし、
遠巻きにしていた観衆を掻き分けて
やってきたアイツのお陰でそれは
成らなかった。



 
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