小説(Ice)

□「愛しいキミ*SIDE:A」
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〈2〉 





オレ、跡部景吾は
クリスマスイブ前日に、
彼女の浮気が発覚して
その場で別れた。





「もっと私を見てほしかったの」




泣き顔でさえ綺麗な彼女に涙ながらに
縋られても、そのまま付き合い続ける
なんてオレのプライドが許す筈もない。

彼女に当分の間は怒りが収まりそうもない
程度には好意もあった分、怒りも大きい。

男と一緒に居るところを偶然を装って
見せつける、なんてチープなことを
しでかす女にはすっぱりと引導を渡して
清々したが、一大イベントの前に恋人が
居ないなんて事態は、今までの人生で
一度たりとも無かったのだが、
彼女のせいで良い迷惑だ。

女に困ることも本来のオレならばない
のだが、彼女はなかなかに
見た目も中身も極上の女だったので
そこらの女が後釜では難しい。


それに、こういうイベントを
そんな妥協した、間に合わせの女と
一緒に過ごせば面倒なことになるのは
目に見えている。

昔、遊んだ女達の一人とでも過ごすかと
思ったが、海外に仕事で出張中だったり
愛人が居たりで、生憎スケジュールの空く
女が居なかった。

イブに空いてるような女を相手にした
覚えもないが、間が悪いとはこのことだ。


そして、忌々しいことに、
別れた現場(しかも彼女の浮気で!)を、
大学の関係者の誰かに見られていたのだ。

その上、
その馬鹿は壊れたスピーカー並みに
吹聴して回ってくれたくれたらしい。




ーーーお陰で、

今のこの不愉快な状況が
出来上がっている、

という訳だった。




 
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