小説(Ice)
□「イカロス」
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一面の銀世界。
しんしんと降り積もる、銀灰色に塗り潰された雪の中にぽつん、と黒い染みが出来たように、傘を差し立ち尽くす――忍足が……居た。
傘に積もる雪が、忍足がどれだけ長くそこに居たのかを俺に教える。
おれが来たことに気づいていないのか、テニスコートを見るその目には、微かな痛みを耐えているかのような不思議な色を映して、……微動だにしない。
「どうしたんだよ?」
焦れたおれが後ろから声を掛けても振り向きもしない。
「――なんも。」
「何もって事は無いだろ」
おれをこんなところまで探しに来させやがってくせして、何もで済ますなよ、とぶうぶう文句を言ってやる。
「――イヤ、もう部活に出ることもないんやなぁと思って……。」
忍足の言葉が途中で消える。
「引退したんだし、もうすぐ卒業なんだから当り前だろ。それがなんだよ。
ってか、途中で止めるなよ、気になるだろ。」
自慢じゃないけどおれはあまり気が長い方じゃないんだ。中途半端な言い方されたら増々気になる。
「――それで?」
しつこく聞くおれ。ちょっとヤなヤツかも知れないけど、こう言う時のコイツにはしつこい位聞かないとダメなんだ。
「いや……」
ヤツは、こんな寒いところでずっと立ち尽くしてたみたいだから当り前だが、少し声が震えている。
その声に、忘れかけていた寒さが不意に蘇る。
クソクソッ早く暖かい所に行きてえなあ。