小説(Gift)

□聖夜の……。
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A



ドンッ

「うわっ」

横から勢い良く押されてよろめいた。

ヤバッ!

何の心構えも無かったから、思いっきりバランスを崩してしまった。
ギュッと目を瞑って衝撃に備えた。

あれ?
転ばん?

そっと目を開くと、誰かの腕が身体を支えてくれていた。
誰かか転びそうになった俺を抱きとめてくれとるらしい。
足下にはその人の物らしきコート。

あちゃぁ、俺を支える為に落としたんやろうな。
しかも、えらい高そうなコートやん。
めっちゃ、ええ人か?

「おおきに」

お礼を言って離れようとした。
が、相手は腕を緩めてくれない。
それどころか、抱きしめる力が強くなっている。

なんや?
一体、どないしたいんやこの人は。
返事も返さんし。
もしや、変態さんか?!

「あんな? そろそろ離して欲しいんやけど」

俺の言葉を聞いてへんのか?
やっぱ、変態さんなん?
ええ人やと感謝したのに。
何で、こんな日にこないな目におうてるんや。
それもこれも、跡部がおらんからやろ。

自分の不運に投げやりに、八つ当たり気味の文句を言っていた。

「跡部のアホ。おらんから変態に絡まれとるやん、俺」

零れ落ちた言葉は文句と言うには、余りにも寂しく響いた。

「なぁ、あんたも男なんか抱いとらんと、女の子ナンパしい」

「………」

相手は無言のままだったが、腕の力を緩めてくれた。

はぁ、離してくれた。

足元に落ちていたコートを拾い、埃を払う。
その時、香りに気が付いた。

跡部とおんなしやん……この香り。

胸が痛い。
痛くて泣きそうや。
……逢いたい……景吾。
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