+楽曲モチーフ作品+

□ある科学者の話
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「貴方は本当に夢見がちね」

彼女は、よくそう言って微笑った。そして僕は答えるんだ。

「夢を見ない科学者なんか、科学者じゃないよ」

そう。夢があるから科学を追えるんだ。

「僕は思うんだ。20年も立てば、もっともっと科学は進歩するよ。人間が機械の体を手に入れるのも夢ではなくなるかもしれない」
「どっかのマンガみたいなことを言うのね」

僕の言葉に、君はそういって、やっぱり微笑って……。

懐かしいな。君は、もう思い出の中の人。彼女は、僕の前から去ってしまった。






――…心が痛い。






「もしも、人が機械の体を手にしたら……この心も取り替えれるのかな?」

僕の創った犬に聞いてみる。呼吸をしないその犬は、ただ無邪気な動きを返してくるだけだった…

「痛い心を捨てて……あの子との思い出も捨てて……」

それは、どんなに楽だろうか?

「感情なんかもういらないよ」

大嫌いだ、こんなもの。痛いのは大嫌い。ヤだよ……

心も鉄になって、取り替えがきくようになったら…それはどんなに素敵だろう?世の中、悪い奴なんかいなくなる。悪い心は捨てて、良い心を入れてやればいいんだから。
それはまるで理想郷<ユートピア>

「君はまた、夢みたいな話だって笑うかな?」

頭に浮かぶのは、彼女の微笑み。忘れたくても忘れられない…彼女の微笑み。

悲しいよ……
痛いよ…

どうして?どうしていなくなってしまったんだい?



『他に…好きな人が……』



濁した言葉は優しさ?
君は、心を取り替えてしまったの?僕を想う心を捨てて、他の奴を想う心を手に入れたの?

僕が機械の心を手にするのは、まだまだ遠そうだし、とりあえず……今は泣いておこうか。生身のこの体は、塩分で錆びることもない。水にショートすることもない。

悲しくて悲しくて……涙はあとからあとから流れてくる。

好きだったんだ。本当に本当に…好きだったんだ。







純情の代償は、この涙?







いつかきっと機械の体になったなら、こうして涙を流すこともなくなるんだろうな……そう思ったら、少し気が楽になった。そうなったら、もう悲しいことも辛いこともないんだ。


キャンキャン


犬が鳴いた。僕の創った犬が鳴いた。無機質に動く犬…
機械の体になったら…あぁなるのだろうか?

「それは、悪いことなのかな?」

今の僕には、よくわからなかった。感情を失うことは…人間にとって幸か不幸か……病んだ僕の心は、正常な判断をしてはくれなそうだ。
その行為を狂科学<マッドサイエンス>と言う者もいるが、何が悪い?辛いのは、悲しいのは、みんな嫌だろう?そんなことがなくなったら、素敵じゃないか……いいじゃないか。感情なんかいらないんだよ。

「研究に……戻ろうかな」








理想郷が僕の夢。微笑った彼女も、きっと分かるさ。ロボットの世界の素敵さを。









また、無機質に犬が鳴いた。

キャンキャン

まるで、僕を戒めるように。







あとがき

1年ほど前に書いた作品です。
以下、その当時のあとがきより。

いつもに増して意味不明…だって曲の内容がこんな感じだったんですもん(言い訳)
でも好きなんです『空想科学少年』
えーと…2ndアルバムに入ってるんですかね?
あ、私はアルバムしか知らないんですよ(汗)しかもそのアルバムすら全て友人に借りた……そ、それでもポルノの曲好きなんです!

はい。で、話について。
まぁ、タイトル通り曲の中ではただ少年の空想なんでしょうが、私はあえてその少年が大人になって科学者になったという設定で書きました。
多分ロボットかなんかの研究してるんでしょうが、失恋のショックからマッドサイエンティストになっていきます。
本気でロボットになろうと願うわけですよ。
そして知識があるから行動に移すわけです。
感情がないロボットの国を理想郷と信じて研究を続ける男……あまりに悲しいですよね。

私は感情がない世界なんかつまらなくて仕方ないと思いますよ。
まぁ、そうなったら“つまらない”という感情すらないのかもしれませんが……

と、まぁなんとも後味の悪い作品でしたが、読んでもらえて感謝です(ペコリ)


 2006/3/13

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