+ノンジャンル小説+

□硝子柩
1ページ/4ページ


昔々、聖女は魔女へ言った。
永遠の眠りに付きなさいと。
魔女は言った。
何故貴様の言う事を聞かねばならぬ。
そこで聖女は魔女を封じた。
解けぬ封印。
魔女は、硝子の柩に入れられた。
其処が、魔女のベッドになった。
彼女は眠った。
永遠ともとれる長い年月。
彼女は眠った。
眠った。
そう、封印が解けるのを只管(ひたすら)に、眠る事で待ったのだ。












墓守(はかもり)が変わった。

何故かは知らない。
だが、分かった。

私は、微睡んでいた。
確信していた。
覚醒は近い。

「君は、綺麗だね」

声がした。

「君と話がしてみたいよ」

そいつは、私に興味を持っていた。
だから、私はそっと囁いた。
直接、心へ。

『此処を、開けろ』

お前なら出来るはずだ。
あの女の血を継いだお前なら。
この柩を開けられるはずだ。

「え?」

『さぁ、此処を開けろ』

私を自由に。
あの女に復讐を。
今度はあいつを。
ここへ閉じ込めてやる。

手が、触れる。
鍵が、弾けた。

あぁ、私は自由。

ゆっくり、目を開いた。
少しずつ、息を吸った。
なにせ久方ぶりだ。
全器官が興奮している。

「君は……」

初めに映ったのは、あの女に似た、けれど男の顔。
私を自由にした墓守だろう。

「私?私は魔女。あの女に封印された、魔女」

声は、思ったよりもしっかりと出た。

「人形じゃ……なかったんだ。本当に、人だったんだ」

驚愕の顔。
なんだか、可笑しくなった。
笑いが込み上げる。

「ククッ……人形か。確かに、永遠に変わらぬ人など居らぬからな」

ゆっくり、立ち上がった。
背後には、あの柩。
忌々しい、硝子の柩。

魔力を感じる。
身の内。
昔と同じ。
私に囁く。
破壊せよと。
滅ぼせと。
自らを誇示せよと。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ