+傍観者+

□傍観者
1ページ/4ページ


人はどうして、「他(ひと)人」を愛さずにはいられないのだろう。
人はどうして、「孤独(ひとり)」で生きてはいけないのだろう。

 人はなぜ、「孤独(ひとり)」に寂しさを覚え「他人」を求めてしまうのだろう。
「他人(ひと)」に頼らなければ生きていけないなんて、人はどれほど弱いのだろうか。
「他人(ひと)」を求めているくせに「財宝(くだらないもの)」のために、「他人(ひと)」を排除したりするのだろうか。
人間とは、理解しがたい生き物である。

 私は、そんな人間共を傍観する者。
人の愚かさを時には嘲り笑い、人というものの悲しさに時には涙し、しかし観ているだけ。
何もすることはない。
私は、人と言うものは愚かで、そのくせ弱くて、どうしようもない生き物だと常々思っている。


 とある少女を見た。
柔らかそうな栗色の髪と、綺麗な瞳を持った、しかし体の弱い少女だった。
少女は、たった一人で生きていた。
弱い体に鞭打って、生きるために一生懸命になっていた。
周りに、支えてくれるものはたくさんいたが、少女は誰にも心を許してはいないようだった。
少女は、人間不信であった。

貴族だった少女の両親は、財産目当ての叔父夫婦に殺されたのだ。
少女は、父親の優しい、けれど悲しい嘘で助かった。
燃え盛る炎の中、父親は言った。
「必ず後から行くから、だからこれを持って早く行きなさい」と。
そして少女の手には、銀色に輝く懐中時計だけが残された。
少女には恐らく分っていたのだろう。
父親のその言葉が、そう言う父親の横で微笑む母の優しい顔が、全て自分を守るための嘘だったということを。
あの燃え盛る炎と、崩れ落ちる建材と、容赦なく肺に入り込んでくる有毒な煙の中から、どうやって助かるというのか。
少女と両親を分けたもの、それは大きな柱。
父が気に入っていた、繊細な細工の施された、古代ギリシアを思わせるような大理石の柱であった。
その柱は、両親を出口から完全に隔離した。
少女は、熱さと苦しさから両親を見捨てて逃げ出した。
逃げ出した外で少女は、空が真っ赤に染まり、少し前まで家族三人仲良く笑っていたはずの家が崩れていくのをただ呆然と見ていた。
月はただ優しく、少女をほのかに照らしていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ