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□働けど、そのうちに
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既に日は高く昇っていて、大方の人間は活動している時間帯。しかし、まだここには布団にもぐっている人が一人いた。
「ハレルヤッ!ハレルヤッてば!今日はお昼からバイトあるんでしょ?」
「――っいっけね!」
ハレルヤを叩き起こしたアレルヤは、忙しい兄を見てため息をつく。
「そんな毎日疲れて、他のバイトに支障が出るなら一つ位辞めたら?」
「そーゆー訳にはいかねぇよ」
苦笑しつつ、ベッドから下りるハレルヤ。
「僕、大学行かないで働いた方がよかったかな?」
アレルヤは申し訳なさそうにハレルヤを見る。しかしハレルヤは、そんな弟の髪をくしゃくしゃにして、にかっと笑う。
「お前はそんな心配すんなって。アレルヤは馬鹿な俺の代わりに、好きなこと勉強してこいよ」
「…ごめんね、ハレルヤ」
「気にすんな」
そうして、クローゼットに向かったハレルヤは着替え始めた。
「――そうだ、他は何してんだ?」
「ティエリア以外は買い物行ったよ。そんでティエリアは図書館」
「ふーん…」
ハレルヤは何かを考えているように思える。
「で、アレルヤは今日は何をするんだ?」
「えっ?僕?えーっと…課題が少しあるからやろうかなって思ってるけど…」
小首を傾げ、何で?と言いたげなアレルヤ。
「じゃあ、俺のバイト先にこいよ。今日は六時で上がるし」
「えっ、いいの?」
「ああ」
嬉しそうに言うアレルヤが、可愛いと考えてしまう自分は末期だと思ってしまう。
「僕、ハレルヤの働いてるところ見たこと無いから楽しみだよ」
着替え終わったハレルヤは、かばんを肩に提げて部屋を出る。アレルヤもそれに続き出て行く。
「じゃあ行ってくる」
「ちょっと待ってよ!」
そう言うと、トーストしたパンを渡される。
「何か食べていかなきゃ。買って食べるよりこっちの方がいいでしょ?」
気遣ってくれる弟がなんて可愛いんだろう。それでにやけそうになるのをハレルヤはこらえる。
「どーも。じゃ、今度こそは行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
明るい笑顔で手を振られれば、ついハレルヤも手を振ってしまうのだった。





「えーっと…ここかなあ?」
日が沈みかける夕方6時。アレルヤは事前に聞いていた住所と照らし合わせ、ようやく着いた一軒の飲食店。路地に近く、決して賑やかとはいえないような所だが、アレルヤはその静けさに落ち着きを覚えた。
アレルヤは恐る恐る中へ入った。
「こんにちはーっ…」
カランカランとドアのベルが鳴る。中は落ち着いた薄暗さで、店外の雰囲気と同じ感じだった。
「いらっしゃいませーってアレルヤか。よく来たな」
灰暗いランプのせいでハレルヤの表情が読み取りにくかったが笑みを浮かべていることはわかった。「いい感じのお店だね」
つい口から出た何気ない一言。その言葉にハレルヤは嬉しそうに目を細める。ハレルヤもこの店を気に入っているようだ。
「だろ?ここはメシも旨いんだぜ!――おやっさん、これが俺の弟ーっ!」
ハレルヤは調理場にいると思われる店主に向かって呼び掛けた。
「なんだい、ハレルヤ。――おお君か、ハレルヤの弟君は。よく似ているな。…やっぱり性格までは似なかったんだな?アレルヤ…君?」まじまじとアレルヤを見て、店主は一言、二言感想を述べる。アレルヤにはいくつかの疑問が浮かんだ。
「なんで僕の名前を…?それに性格なんて…何故?」
店主の言うことは全て当たっている。だからこそ不思議なのだ。
「ん?どちらもハレルヤが嬉しそうに話すんだ。アレルヤは自分と双子なのに性格が全然似てないんだとか、優しい奴なんだとか、大学に行けなかった俺の代わりに行ってくれる自慢の弟だとか、な」
かあっと頬がほてる。自分のことを外でこんな風に言われていたなんて。けれども恥ずかしさより嬉しさの方が大きかった。なぜなら、ハレルヤがそう思ってるから。「それよりよぉ、おやっさんは自己紹介しねぇのかよ?」
「ちょっ…!言葉遣いっ!」
アレルヤはハレルヤをいさめるが、代わりに店主が答えた。
「気にしないよ。アレルヤ君、セルゲイだ。よろしく」
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