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□すれ違う6月
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『――汝、病める時も健やかなる時も汝が夫、ロックオン・ストラトスを永遠に愛することを誓いますか?』
『はい、誓います』
森の中、神父の声はすれど姿は無い。この空間にいるのはロックオンと刹那だけである。
『では、誓いのキスを…』




ガバッ!

ちょっと待て訳わからん!なぜに俺がロックオンとあんなことに!あと1p…じゃなくて!そもそも何なんだこの夢は!

場所はトレミー内の刹那の部屋。夢から覚めた刹那は、かつて無い程混乱していた。

あれだ、結婚…なんて俺の願望なわけない!ロックオンが悪いんだ、うん、そうに違い無い!昨日あんなことが無ければこんなものを見ることは無いんだ!

どうやら、昨日に何かがあったようだ。
部屋は一人なのに、刹那は必死に否定していた。けれど頬を染めながら。
どこか、自分に言い聞かせているようである。



◆◇◆◇◆◇



昨日のことだ。
「刹那っ!」
「…ロックオン」
二人の距離は近い。刹那も笑顔を見せる。―――つまるところ、二人は恋人同士なのである。いつの間にかそんな感じになっていたのだった。
人気のない隅。二人はいつものように口づけをする。
「――っん…ふ……っっ!」
そこまではいつも通りのキスだった。しかし、長い口づけの最中に、あろうことかロックオンは刹那の腰を触り始めたのである。
さすがに驚いた刹那は唇を引き離した。
「っ何してんだ!」
しかし位置は変わらないので、ロックオンの手は刹那の腰に添えられているままだった。
「何って…触ってるけど、なんかまずいか?」
「俺は女じゃないっ。そんなことするなっ!」
「キスはしているのに?」
「それは…」
刹那はどもる。
「俺は、刹那が好きだから触りたいと思った。それじゃ駄目なのか?」
ロックオンは少し悲しそうな、そんな目をした。
「…っ俺は嫌だっ!」
「…」
「っ…!」
顔を背け、ロックオンを振り払いその場を駆け去った。
残ったロックオンは後を追いもせず、ただ短い嘆息を漏らしただけだった。



◇◆◇◆◇◆



「絶対それのせいだ…」
憎々しげに虚空を睨み、そして布団に顔を埋める。
逃げてきた以上、ロックオンと顔を合わせづらい。
好きならキスはする。キスは親愛の証だ。しかし、身体を触るとはどのような了見だろうか。
第一、なぜ男である自分の腰なんかを触るのだろうか。
好きなら相手に触れたい…それは当たり前のことなのだろうか。自分はさほどロックオンに触れていたいと思って無いのは、余り好きではないからなのだろうか。
刹那は首を振る。さっきから自問自答してばかりだ。
とりあえず、ミッションに影響を与えない程度に関わらないようにと刹那は決めた。
――次に会ったら俺達はどうなるのだろうかと不安だから。



◇◆◇◆◇◆



「はぁぁぁ…」
ロックオンは盛大にため息をつく。
トレミーの中の食堂。今の時間は食事時ではないのでロックオン以外はいなかった。
「あれ、ロックオンじゃないですか」
「アレルヤ…」
そんな中、アレルヤが入ってきた。いつもと違うロックオンの様子にアレルヤは小首を傾げる。
「隣いいですか――で、何があったんです?」
隣に座ったアレルヤは、俯せ状態のロックオンを覗きこむように見て言った。
「いや……急ぎすぎたんだろうなって。俺は」
「まずいことでもしたんです?」「さすがにまずかったんだろーな…。キョヒられたし」
また一段と深いため息をつく。
「女性関係ですか?」
「…そんなとこ」
「うーん…深くは聞きませんけど、まずは謝った方がいいんじゃないでしょうか?」
「それ無理。あれ以来避けられてる…」
そこでアレルヤは、何かを思い付いたようだ。
「あ、刹那のことだったんですね」
「――っ!なんでわかった!」
ガバッと跳ね起き、真っ赤なロックオンはアレルヤを見下ろす。
アレルヤは妙な所で鋭かったりする。
「見ていればわかりますよ。いつもロックオンが引っ付いていっているのに、最近は無いから…でもまずいことって?」
「…それは聞くな」
「じゃあ、急ぎすぎたロックオンが、刹那に手を出したってことにしておきます」
「っおい!なんでそうなる!」
「違うんです?」
「…いえ、相違ありません…」
ロックオンはさっきとまた違ったため息をつく。
「俺、アレルヤに勝てる気がしない…」
「何か言いました?まあ、相手が刹那であれ誰であれ、謝るにこしたことはありませんよ。そうでしょう?」
「そーだな…」
そう言ったロックオンの瞳は、それを決意した瞳のようだった。



◇◆◇◆◇◆



刹那はトレミーの通路で、辺りをキョロキョロとうかがっていた。
「いない…よな」
確認するとようやく道を歩きだした。
あの日から数日経った。この間には特にミッションは無かったから、ロックオンを避けていても何の支障も無かった。
しかし、それがずっと続くのも困るとそろそろ刹那は思い始めた。大体、一番悪いのは自分だとここ数日で気付いてきている。向こうのことを聞かず、一方的に逃げたのはこちらだ。
本音を言えば恥ずかしかっただけかもしれない。もしくはこの穏やかな関係が崩れるのが嫌なだけかもしれない。
「…謝った方がいいのだろうか…」
ふうっと一呼吸し、顔を曇らせる。また自問自答してばかりだ、と。
「刹那っ」
「っ!」
不意に後方からロックオンが、刹那に声をかけてきた。
ここ最近の癖でつい身構えてしまい、逃げ出そうとする。
「逃げるなよっ」
しかし、案の定ロックオンに腕を掴まれた刹那は、立ち止まるしか無かった。
「悪かった!」
開口一番にそう言われ、刹那は戸惑った。あの、いつもいい加減にしているロックオンが、自分に頭を下げているのだから。
「な…ロックオン?」
「…こないだ、触ったこと悪かった。…急ぎすぎた」
饒舌なロックオンが、言葉を選んで自分に話してくる。
「嫌…だよな。触られるなんて。……俺、もうしないから」
刹那は不覚にもときめいている。
「でも…傍にいていいか?刹那が傍にいないと…嫌、だから」
こんなにもロックオンは自分を思ってくれている。自分だって悪いのに、ロックオンから謝ってくれた。
刹那は、ロックオンを――愛おしいと思った。
「…俺も、ごめん」
「え…」
ロックオンのポカンとしている表情が目の端に映る。それを気にせず、自分の考えを告げた。
「俺の方が悪かった。勝手に逃げたのは俺だし、それでロックオンを傷つけた」
ロックオンは目を見開いたまま。
「本当は嫌だというより、その…恥ずかしかった。それに、そこまで許したら…」
元来、人に触れられるのを極端に嫌う刹那である。
「でも…ロックオンなら、許す」

好きだから――と。

「はあぁぁぁ…」
すとんとロックオンはしゃがみ込む。
「…何だ?」
「いや、結局すれ違いってやつだと分かってさ…」
「すれ違い…」
「…じゃあさ、キスはどうなんだ?」
触れられるのは嫌なんだろ?とロックオンに尋ねられる。
「…キスは親愛の証だろう?その人に好意を抱けばするものじゃないのか?」
「…そーか…。つまりは身内でもキスはしていたと…?」
コクンと刹那は頷く。
「俺はお前の家族か…」
期待するだろ…ロックオンは呟き、刹那は首を傾げる。
「だから、これからは避けない」
ぎゅっと手を繋ぎ、背伸びをして唇をつける。唇を離せば、刹那の視界にロックオンの顔が広がる。
「俺も、傍にいて欲しい」
ロックオンは刹那をしっかりと抱きしめる。刹那は、逃げない。
こんなにも強く抱きしめられたのは初めてだと、ロックオンの腕の中で刹那は思った。
ふと、ロックオンの言葉を思い出す。
「…家族、か」
「どうした?刹那」
ロックオンは俯いている刹那を覗き込むようにして見る。
「いや…夢で見た、から」
「そうかぁ」
「何でそんな嬉しそうなんだ」
ニヤニヤとロックオンは刹那を見る。
「家族かー、そーかそーか」
「ニヤニヤと気持ち悪い」
なおさら強く抱きしめられる。
「家族になりたいのかぁ」
「違うっ!」
刹那はペシッと叩くが、本気では無い。
「…冗談だよ。でもお前の傍にはいるからな」
「ああ」
二人はしばらく抱きしめあっていた。




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